ご挨拶
自治医科大学附属さいたま医療センター
心臓血管外科 診療科長
副センター長
山口敦司
平素より自治医科大学附属さいたま医療センターの心臓血管外科の診療にご理解をいただき、誠にありがとうございます。
例年に倣い今年も、私どもの診療実績・研究成果をまとめて年報を作成いたしました。常日頃よりご支援いただいているみなさまにご覧いただければ幸いです。
ところで、僧帽弁という名前は、カトリックの司教・主教が祭事につけるMitraという冠に似ているということが、由来のようです。
そのフォルム、まことに美しいと感じているのはわたくしだけではないと思いますが、いかがでしょうか?
心筋が作りだす駆出圧を見事に制御する二葉弁。腱索は僧帽弁の弁尖と2つの乳頭筋との懸け橋となり、理想的な弁腹の緊張を作る。
このような理想的なフォルムはどのように作り上げられてきたのでしょうか?ヒトの発生や進化の長い歴史の中で、あらゆる試行錯誤が繰り返されながらこのような完成型が作り上げられてきたのでしょうか?
人体の解剖が学問として成立して以来、ヒトがこのような臓器の構造を模倣する努力を幾度も重ねてきておりますが、現時点では到底実現できておりません。
血液を駆出する左心室の内腔は円錐状と言われておりますが、この左心室の心筋の構造も非常に美しい構造になっているのです。
心筋は単純な同心円状の走行をしているのではなく、心筋線維が複雑ならせん構造になり縦横に重なり合って、血液を絞り出すために理想的な構造をしているのです。
心筋のフォルムも、とても芸術的で感嘆してしまうような構造をしています。
これらは人体における奇跡のほんの一部分にしかすぎませんが、このような奇跡がどのようにして起こったのか、どこかに何か特別な制御する力が働いているのではないか、と思うことはありませんか?時としてヒトはそれを神の思し召しであると言いますが…
2020年の年頭に顕在化したコロナウィルス感染は、3年が経過した現在も感染の脅威の波が繰り返しており、世界的な感染拡大に歯止めをかけることが出来ずにおります。
この3年間当センターでは地域の要請に応える形で、感染を伴う重症患者様の受け入れを行いつつも、心臓血管外科疾患などの通常診療も継続して行ってまいりました。
当科スタッフが派遣されている関連施設でも、各地域におけるコロナウィルス感染患者を最大限に受け入れながら通常診療も継続して行い、この前代未聞の苦難に立ち向かって最前戦にて苦闘してまいりました。
そのような努力が報われる日がいつ訪れるのか、先行きはいまだに見えてきておりません。
僧帽弁の構造がどのようにして形作られてきたのかもわからないまま、コロナウィルスに対する対応策も定まらず、次々と変異する相手に振り回され続けています。
成書に書かれていることはごくわずかなことだけであり、わたくし達を取り巻くこの世界、とにかく分かっていないことが多すぎます。
この忌まわしいコロナウィルス感染、一日も早い収束を心から願うこと、しかできることがないのはとても悲しいことです。
話しは手前みそになってしまいますが、2022年には新外科専門・専攻医が7名、私どものチームに参入してくれました。
そして今後心臓血管外科専門医取得を目指す2名を合わせて9名が新たな仲間となりました。若さは財産です。
自分がやりたいことができる自由な時間がふんだんにあるということが、大きな財産です。そんな若いスタッフはチームに大きな可能性を持ち込んでくれます。
それを受け入れるわたくしたちは、彼らのやりたいことを支援して、チャンスを提供することに傾注します。
未来の目標を持つ若いスタッフと、その目標を支援するシニアスタッフとの間において、求めるGoalが同じあれば、Sustainable Development Goalsの一つになることができます。
共通した目標として、まず1番にあげられることは、患者本位の手術治療・最高の医療を提供することであり、これはわれわれのグループで引き継がれてきた基本理念であります。
今年も皆様におかれましては、引き続きご指導・ご鞭撻をいただけますよう何卒よろしくお願い申し上げます。
2023年3月吉日