移植が必要な病気は?  以下の移植の適応は主に55歳以下の若い患者さんを想定して説明してあります。55歳を超える患者さんについては移植の副作用が強くなるので、ミニ移植という、移植前処置を弱めた移植方法が必要になり、移植適応も変わってきますのでご注意ください。

専門用語の解説 ~寛解と根治~
 白血病やリンパ腫の場合、最初に行う治療法は寛解導入療法です。これは完全寛解という状態を目指した治療法であり、完全寛解というのは通常の検査では悪い腫瘍細胞がみつけられないような状態のことをいいます。例えば急性白血病なら、骨髄検査で白血病細胞が5%以下となり、血液検査でも白血球、赤血球、血小板が回復していて、さらに、体の他の部分にも白血病のかたまりなどが見つからない状態のことをいいます。
 しかし、完全寛解の状態でも、体の中には腫瘍細胞がまだまだ数多く残っているということが知られています。ですので、このまま放置すると再発してしまいます。そこで、寛解になった後にも地固め療法、維持強化療法などの化学療法を行ったり、場合によっては造血幹細胞移植を行うのです。
 最初に寛解導入療法を行って完全寛解になった状態を第一寛解期といいます。その後、再発してしまった場合には、もう一度寛解状態を目指した治療を行います。そして再度完全寛解になったら、この状態を第二寛解期といいます。
 そして、通常は完全寛解の状態が5年ぐらい続けば、その後に再発することは稀だといわれています。すなわち、この状態は病気は本当に治った状態、根治ということになります。

専門用語の解説 ~生存率、予後、予後因子~
 移植を行うべきかどうかを判断するためには、移植以外の治療法でどのような治療成績が期待できるかの予測が必要になります。通常は生存率や無病生存率が指標になります。生存率というのは、同じ病気の人が100人いた場合に、例えば5年後に何人のひとが生存しているかという予測です。無病生存率は病気が見つからない状態で生存している確率です。これらの将来の予測のことを予後予測といいます。そして、予後を予測するために重要な因子が予後因子です。

急性骨髄性白血病(AML)の移植適応は?
●第一寛解期
 白血病細胞の染色体分析で予後を予測します。
 予後良好群の患者さんは化学療法だけで根治する可能性が高いので造血幹細胞移植を行う必要はありません。
 しかし、予後中間群、あるいは予後不良群の患者さんは、HLA型のぴったりとあうドナーさんが血縁者にいる場合には、移植を行うほうが生存率が高くなるということが示されています。しかし、骨髄バンクの非血縁ドナーからの移植やHLAの不一致のあるドナーからの移植の場合は移植成績がやや悪くなりますので、移植を行うかどうかは慎重に考える必要があります。
●第二寛解期あるいは寛解にならない場場合
 このような状態の患者さんは化学療法だけで根治する可能性が低くなります。HLA型があうドナーさんが見つかれば移植治療が勧められます。しかし、白血病が化学療法に全く反応しないような場合には、移植を行っても再発する可能性が高いので、移植の副作用などについてもよく考慮して治療方針を考えなくてはなりません。

急性リンパ性白血病(ALL)の移植適応は?
 急性リンパ性白血病の治療成績(予後)を予測するために大切なのは年齢、初発時の白血球数、染色体検査などです。
●第一寛解期
  予後不良群の患者さんは、HLA型のぴったりとあうドナーさんが血縁者にいる場合には、移植を行うほうが生存率が高くなるということが示されています。骨髄バンクの非血縁ドナーからの移植やHLAの不一致のあるドナーからの移植の場合はやや移植成績が悪くなりますが、それでも移植を行うほうが最終的な生存率は高くなると思われます。標準予後群の患者さんは化学療法だけで根治する可能性も高くなりますが、最近は造血幹細胞移植を行うほうが生存率が高くなるというデータが多いです。しかし、今後の化学療法の強化によって結果が変わる可能性はあります。
 フィラデルフィア染色体陽性の急性リンパ性白血病に対する化学療法の治療成績は、イマチニブ(商品名グリベック)などの新薬を併用することによって改善しましたが、現在の時点では長期的な成績は不明ですので、やはり適切なドナーがいれば移植が勧められます。
●第二寛解期あるいは寛解にならない場場合
 このような状態の患者さんは化学療法だけで根治する可能性が低くなります。HLA型があうドナーさんが見つかれば移植治療が勧められます。しかし、白血病が化学療法に全く反応しないような場合には、移植を行っても再発する可能性が高いので、移植の副作用などについてもよく考慮して治療方針を考えなくてはなりません。

慢性骨髄性白血病(CML)の移植適応は? 
●慢性期
 慢性骨髄性白血病の慢性期の患者さんに対しては、まずはイマチニブ(商品名グリベック)、あるいは第二世代のニロチニブ(タシグナ)、ダサチニブ(スプリセル)による治療を行います。しかし、十分な反応が得られない場合や、途中で治療効果が失われた場合には、第二世代の薬剤を検討し、それでも効果が得られない場合は造血幹細胞移植を考えます。この時点で、白血病細胞にイマチニブが効きにくくなるような遺伝子の変化があるかどうかを調べておくとよいと思います。
●移行期、急性転化期
 移行期、急性転化期にもイマチニブは効果がみられますが、多くの場合、その効果は一時的です。HLA型があうドナーさんが見つかれば移植治療が勧められます。しかし、白血病が化学療法に全く反応しないような場合には、移植を行っても再発する可能性が高いので、移植の副作用などについてもよく考慮して治療方針を考えなくてはなりません。

骨髄異形成症候群(MDS)の移植適応は?
 骨髄異形成症候群は、骨髄中の芽球(白血病細胞)の割合、染色体異常、血球減少の程度の3項目を用いて、Low、Int-1、Int-2、Highのよっつの段階に予後が分類されます。最近は輸血の頻度なども含めた新しい予後予測(WPSS)も用いられています。
●Low、Int-1
 Low、Int-1の患者さんは、輸血などの補助療法で様子を見ることが勧められます。しかし、徐々に芽球(白血病細胞)が増えてきた場合、輸血の頻度が多くなってきた場合、好中球(白血球の一種)が非常に低い状態が持続するようになってきた場合には造血幹細胞移植を検討します。
●Int-2、High
 Int-2、Highの状態の患者さんには、HLA型があうドナーさんが見つかれば移植治療が勧められます。しかし、白血病に進行していて、しかも化学療法に全く反応しないような場合には、移植を行っても再発する可能性が高いので、移植の副作用などについてもよく考慮して治療方針を考えなくてはなりません。

非ホジキンリンパ腫(NHL)の移植適応は?
 非ホジキンリンパ腫の治療は、病理診断での分類によって大きく異なります。ここでは、よく見られる病理型である、び慢性大細胞型B細胞性リンパ腫と、ろ胞型リンパ腫について説明します。
 び慢性大細胞型B細胞性リンパ腫の治療成績(予後)を予測するために大切なのは血清LDH値、ステージ、パフォーマンスステータス(全身状態)で、Low、Low-intermediate、High-intermediate、Highのよっつに分類されます。ろ胞型リンパ腫の場合は年齢、ステージ、血清LDH値、ヘモグロビン値、リンパ節以外の病変で、Low、Intermediate、Highのみっつに分類されます。
●第一寛解期
 ろ胞型リンパ腫は化学療法だけで根治することは稀ですが、進行が遅いので第一寛解期での造血幹細胞移植は行いません。
 一方、び慢性大細胞型B細胞性リンパ腫の第一寛解期の場合は、LowやLow-intermediateの場合は化学療法だけでも、ある程度の確率で根治が期待できるので造血幹細胞移植は行いません。High- intermediateあるいはHighの場合は自家造血幹細胞移植を行う方が生存率が良くなるということが示されていましたが、リツキシマブ(商品名リツキサン)の登場後は自家造血幹細胞移植の意義は不明になっています。
●再発後
 ろ胞型リンパ腫の第二寛解期、あるいは再発後に化学療法への反応性がみられた場合は、リツキシマブが登場する前は自家造血幹細胞移植を行うことによって生存率が改善することが示されていましたが、リツキシマブによって化学療法の成績もよくなり、ベンダムスチン(商品名トレアキシン)などの新薬も登場していますので第二寛解期に移植を行うことは少なくなってきています。
 一方、び慢性大細胞型B細胞性リンパ腫の第二寛解期、あるいは再発後に化学療法への反応性がみられた場合は、自家造血幹細胞移植を行う方が生存率が良くなるということが示されています。ただし、化学療法への反応が悪い場合には自家移植を行っても根治は期待できません。その場合は、HLA型があうドナーさんが見つかれば同種造血幹細胞移植を考えます。

多発性骨髄腫(MM)の移植適応は?
 多発性骨髄腫の場合は、造血幹細胞移植を行うかどうかは、病気が診断された最初の段階で判断します。
●初期治療
 多発性骨髄腫は通常の化学療法で根治することはありませんので、プラトー期、すなわち治療を続けても続けなくても同じぐらいの病状が維持される状態を目標として化学療法を行うのが一般的な治療法でした。この治療法と、化学療法を何回か行ってすぐに自家造血幹細胞移植を行う方法を比較すると、移植を行っても生存率に関してはあまり変わらないのですが、病状が進行するまでの期間が長くなり、症状がなく、治療を行わずに過ごせる時間が延長することがわかりました。ですので、現在は化学療法を何回か行ってからすぐに自家造血幹細胞移植が広く行われています。自家造血幹細胞移植を行っても根治することはなく、やがては病気が進行してしまいますが、最近はボルテゾミブ(商品名ベルケイド)やレナリドミド(商品名レブラミド)などの新薬を自家移植に組み合わせることによって治療成績は著しく向上しています。
 イタリアからの報告では、HLA型があう同胞ドナーさんがいる場合には、自家造血幹細胞移植を行った後にミニ移植を行うことによって、少なくとも数年間寛解状態を維持できているということが報告されていますが、他国からの報告では必ずしも同種移植の有用性は示されていませんので、多発性骨髄腫に対する同種移植の位置づけは明らかになっていません。

再生不良性貧血(AA)の移植適応は?
 再生不良性貧血の重症度は好中球数、網状赤血球数、血小板、輸血の必要性によって、軽症、中等症、やや重症、重症、最重症の五段階に分類されます。やや重症、重症、最重症の場合は免疫抑制療法あるいは造血幹細胞移植が必要になります。
●やや重症、重症、あるいは最重症
 免疫抑制療法のほうが安全な治療法ですが、効果が出るまでに1~3ヶ月かかるということと、効果が出ても再発する確率が高いということが問題です。HLA型のあう血縁ドナーがいる場合に、診断してからすぐに移植を行うのか、あるいは免疫抑制療法を試してみるのかは、年齢と好中球で判断します。年齢が若いほど、そして好中球数が少ないほど造血幹細胞移植を行うほうがよく、年齢が高いほど、そして好中球数が保たれているほど、まずは免疫抑制療法で様子をみるほうがよいということになります。
 免疫抑制療法を行って3~6ヶ月たっても反応が見られない場合には造血幹細胞移植が勧められます。HLA型のあう血縁ドナーがいない場合には、免疫抑制療法を行う段階で、バンクに登録しておくことも考えます。