さて、このIP-10が抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎の病勢を示すマーカーとなりえるのか?そこは今後の課題です。私たちが今参考にしている検査値は血清フェリチンです。これは当院ではその日の内に結果が出るため、とても有用です。ただ、一部の患者では長期間なかなか値が下がらず、これを指標に治療をしていると「強い治療をしすぎ(=overtreatment)」になっているのではないか、という懸念を感じることがありました。IP-10の経過を見ると、あまりにも速やかに下がっているので、これで油断すると逆に治療が足りないということになるかもしれません。経験の蓄積が必要です。

フェリチンに関しては、以前話に出した成人Still病で非常に高値になることが知られており、この疾患では血清のIL-18も異常高値になります。一方、抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎の患者でもフェリチン、IL-18共に高いのですが、成人Still病ほどの極端な高値ではありません。この辺りがどのように制御されているのかも大変興味深い所です。

今回のプロジェクトに携わる前は気づいていなかったのですが、IP-10は実際にI型IFNシグナルの程度を示すマーカーの1つとして論文でも使われていました。例えば全身性エリテマトーデス治療薬アニフロルマブの効果を調べる際に、IP-10のタンパク濃度がI型IFNの下流で誘導される分子(の1つ)として使われています(Smith et al., Sci Rep. 2020)。というわけで、II型IFN(=IFN-γ)→IP-10経路と同様に、I型IFN→IP-10の経路も既に確立していた訳ですが、これが抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎の成り立ちに関わっているのではないか?という考えは頭から離れません。そもそも、抗MDA5抗体の対応抗原であるMDA5という分子は「細胞にウイルスが侵入した場合にそれを感知して、細胞にI型IFNを作らせる」という働きを持った分子なのです。「I型IFNが高産生される疾患の自己抗原がI型IFN産生の引き金となる分子である」・・・とても単なる偶然の一致とは思えません。

しかし関わっているとしたらどのようにしてでしょうか。以前京大の高名な先生がこの抗体のことをセミナーでお話しされていました。この抗体自体が抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎を悪化させる機能を持つ、とのことでした(つまり単なる病気の「結果」ではなく、この抗体自体が病気の「原因」ともなる、ということ)。しかし、抗体が細胞の中に侵入して、細胞の中(細胞質)にあるMDA5と結合するなどということがあるのだろうか?と当時不思議に思ったことを覚えています。抗体が細胞に取り込まれることはあるのですが、それはエンドソームという小胞の内部に閉じ込められた形で取り込まれるものであり、細胞質内のタンパク(ここではMDA5)とは直接接触しないと考えられます。

ただ、強い炎症によって細胞が壊死に陥ったとき、細胞内のMDA5が外に放出されることはあるかもしれません。MDA5はRNAのセンサーでもあるためMDA5とRNAとが複合体を形成している可能性があります。それが自己抗体と結合して、エンドソーム内に取り込まれることもありそうです。そのように取り込まれたタンパク-RNAの複合体がエンドソーム内のToll like receptor (TLR)と結合すればI型IFNの産生は強く刺激されることになるでしょう。

佐藤 浩二郎

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