TK先生の言葉で印象に残っているのは、「使ったTRAIL抗体は本当にTRAILを認識しているのか?」という質問です。すぐには意味が理解できなかったのですが、抗体の「特異性」を問われたようです。抗体と抗原の反応は鍵と鍵穴、と言われますが、その抗体が他の抗原と「絶対に・全く」結合しない、というわけではありません。交叉反応という現象があります。TRAILはTNFファミリーに属するサイトカインなので、もしも同じファミリーに属する他の分子と抗TRAIL抗体が結合するのであれば、実験結果の解釈が大きく変わってきてしまいます。その危険性のことをTK先生は言及されたのだと思います。
基礎研究を経験して4年足らずの私にはそこまで考えが及ばず、抗TRAIL抗体=TRAILに反応する、というように短絡的に理解していました。もちろん試薬の特異性を1つ1つ調べていたら大学院生活などあっと言う間に終わってしまいます。かなりしっかりと製品のクオリティーコントロールをやっていそうな会社もあります。しかし少し前までは、制限酵素1つとっても自分で精製していた時代があったわけで、精製が悪いと、狙っていたDNA配列とは違うところが切断される、という「事故」が起きかねません。試薬が信じられるかどうか、というのは研究の成否を決定する重要な要素なのです。
実際、その後の経験では、Sant○Cru○社のポリクローナル抗体は全然使えない、ということを経験しました。(同社の名誉のために書いておくと、抗Nfatc1抗体はとても良い抗体だと思います。ただしこれはモノクローナル抗体です。今調べたら2016年にポリクローナル抗体の供給を終了しているようで、英断と言えるでしょう。)
ちなみにTK先生の発見されたIL-5ですが、それに対する抗体製剤が本邦では2016年より気管支喘息、2018年より我々の科の疾患である血管炎の一種に使われるようになっています。当時は予想していなかったことです。
佐藤 浩二郎
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