免疫学教室の特徴は徹底的なディスカッションにありました。何時間も延々と続き、
議論が何度も元に戻るということを繰り返すことさえありました。そのディスカッションの中で一番記憶に残っているのはIRF-2ノックアウト(KO)マウスの解析プロジェクトです。

IRF-2は転写因子IRF-1と共に見つけられた転写因子ですが、IRF-1と異なり転写を負に制御する因子でした。そしてそのKOマウスには興味深い表現型がありました。成長するにつれて皮膚炎を発症するのです。このプロジェクトに取り組んでいたのは企業の
研究員として免疫学教室に参加していたHS先生です。様々なマウスの交配実験を重ねて、I型IFN受容体とIRF-2の両欠損マウスにすると皮膚炎が起きないことを見出しました。また、キラーT細胞を除去するとやはり皮膚炎が起きないことが分かりました。
つまりこのマウスではIRF-2が無いことにより、I型IFNのシグナルが過剰に入り、その結果としてキラーT細胞が皮膚で炎症を起こしているようなのです。KOマウスの交配により非常にクリアカットなデータが示され、非常に印象的でした。しかしものすごい努力が必要なプロジェクトで、私はそれを間近に見ることができました。

当時インターフェロンシグナルの過剰による疾患=interferonopathyという言葉はまだ無かったと思いますが、そのような病態モデルのはしりだと思います。

これは「乾癬」というヒトの皮膚疾患のモデルではないかということでImmunity誌に載りました(Immunity 2000, 13: 643-55)。乾癬はなかなかやっかいな病気(軽症から重症まで幅広い)なのですが、10年以上後に治療が革命的に進化し、私自身臨床の現場で新薬の効き目に瞠目することになりました。

HS先生は研究をまとめるのに大変な苦労をされたわけですが、その後会社を辞めて大学に戻り、今は薬学部の教授をされています。研究に麻薬のような中毒性があることの証左だと思います。

佐藤 浩二郎

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