Nfatc1は転写因子の1種であり、これはNuclear factor of activated T-cells, cytoplasmic 1 という長い名前の略語です。その名の通り、活性化したT細胞で転写因子としての機能を果たすことが知られていました。Nfatc2, Nfatc3…とファミリー分子が存在し、それらの機能を阻害する薬剤(シクロスポリンAやタクロリムス)は免疫抑制薬として臓器移植の際に、移植した臓器が拒絶されることを防ぐ目的で投与されますし、我々の診療科では様々な炎症性疾患の治療薬として用いています。
そのT細胞にかなり特異的な(と思われていた)転写因子が破骨細胞で増えている、それも数十倍というようなレベルで増加するというのはなかなか興味深い現象だなと私は感じていました。
もう一つ、大変面白かったTH先生の研究が、破骨細胞の分化を、サイトカインの1種であるインターフェロンγ(IFN-γ)が強力に阻害する、というものでした。ごく少量のIFN-γを破骨細胞の分化系に添加するだけで、破骨細胞は全く分化しなくなるのです。これがなぜ面白いのか、という点についてはちょっと説明が必要なのですが、少し話が臨床寄りになります(まあそもそもこれは臨床診療科のブログではあるのですが・・・)。
我々の診療科で今一番診療している疾患は、外来では間違いなく関節リウマチ(rheumatoid arthritis, RA)です。これは自己免疫疾患の範疇と考えられていて、免疫応答が自分自身(ここでは主に関節)に対して起こるものだとされています。実際に、先ほど出てきたタクロリムスはRAの治療薬として認可されているので、私も結構処方しています。つまりT細胞の機能を抑制することがRAの治療になる、と考えられています。
以前も書いたように(もはや書いたかどうかうろ覚えになっていますが)、T細胞の内、ヘルパーT細胞(Th cells)はTh1, Th2の2種類のサブセットに分類できることが提唱されていました。そして、RAはTh1応答に偏った疾患と考えられてきたのです。
佐藤 浩二郎
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