関節リウマチ(RA)がTh1寄りの疾患であるというのは、RA界の大御所であるSmolen先生が提唱したから広く信じられていたのではないかと想像しています(Smolen et al., Scand J Rheumatol. 1996など)。
RAでは関節近傍の骨が破骨細胞により破壊されますし、破骨細胞分化因子の正体が、元々T細胞が産生するサイトカインとして発見されたRANKLそのものであったことを考えると、Th1細胞がRANKLを発現して破骨細胞を誘導し、関節の破壊をもたらす、という考え方はとても自然なものに思えます。
しかし、IFN-γが破骨細胞分化を強力に阻害するという発見は、上記の仮説に疑問を投げかけるものでした。というのはTh1細胞の産生する代表的なサイトカインがIFN-γだからです。RAが本当にTh1-type diseaseであれば破骨細胞は分化できず、骨破壊も起きないはずだということになります。

もう一つ不思議なこととして、RAの動物実験モデルとして広く利用されている実験系にコラーゲン関節炎(CIA, コラーゲンを免疫して関節炎を惹起する)があるのですが、IFN-γのノックアウトマウスやIFN-γ受容体ノックアウトマウスにCIAを誘導すると、関節炎は軽くなるどころか、むしろ重症化するという論文が次々に出ていました。これはIFN-γシグナルが、関節炎を悪くするよりむしろ防御的に作用していることを示唆します。

これは仮説のどこかにおかしい所があるのではないか、と思いました。IL-2パラドクスを初めて知った時と同じようなソワソワした気持ちになりました。Th1やTh2細胞は試験管内で分化させることができますし、制御性T細胞(Treg)は磁気ビーズを利用して集めてくることができます。破骨細胞の分化系にこれらのT細胞を加えることはさほど難しいことではありません。

そういうわけで、これがTH研に参加した時に真っ先に取り組んだ研究の一つです。
結果はかなりはっきりしていました。
・Th1, Th2細胞は破骨細胞分化を強く抑制しました。
・Treg細胞は破骨細胞分化にほとんど影響を与えませんでした。

佐藤 浩二郎

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