Th1, Th2, Tregいずれも破骨細胞分化を促進しないというのは、まあそれほど驚くべきことではありませんでした。破骨細胞の分化系は広く利用されているので、そこにサイトカインを添加するのは容易です。多くのサイトカインが破骨細胞分化を阻害するという報告が集積しつつありました。

 しかし、関節リウマチ(RA)がT細胞機能の阻害薬で改善する疾患であり、かつ骨破壊が問題になる疾患である、という2つの事実はどのようにすれば整合性が取れるのでしょうか。

 1つの仮説として、Th1, Th2, Tregのいずれでも無いようなT細胞が存在して、それが破骨細胞分化を促進する、と考えれば矛盾は起きないと思われます。しかしそれは30年近く免疫学の世界に君臨してきたTh1/Th2パラダイムに真っ向から逆らうような考え方です(ことはじめ(2)参照)。

 しかし、そう考えなければ話が進みません。そして、多くのサイトカインが破骨細胞分化を阻害する中で、1つ例外的なサイトカインが報告されていました。それがIL-17です。当時女子医大におられた小竹先生らが、RA患者の関節滑液に存在するIL-17が破骨細胞分化を促進するということを1999年に報告していたのです(Kotake et al., J Clin Invest.)。これに注目しない手はありません。

そして関連論文を探している時に、驚くような論文が見つかりました。

Interleukin-23 promotes a distinct CD4 T cell activation state characterized by the production of interleukin-17 Aggarwal et al., J Biol Chem. 2003がそれ9です。サイトカインIL-23が特定のT細胞に作用して、IL-17産生を誘導するというものでした。Th1分化に必須のIL-12はむしろIL-17産生を抑制するとのことでした。

 なぜ驚いたのか、それはIL-23を発見した2000年の論文が、私が大学院生の時にジャーナルセミナーで紹介した(そして怒られた)論文そのものだったからです(ことはじめ(14))。

IL-12によく似たサイトカイン、でも少し役割が違いそうなサイトカイン、それがIFN-γではなく、IL-17の誘導に重要・・・私は運命論者ではありませんが、その時ちょっと運命的なものを感じたのは事実です。IL-12がTh1細胞を分化させてIFN-γを産生させるようになるのだったら、IL-23が「新しいThサブセット」を分化させてIL-17を産生させるのではないか・・・?  これは試してみるしかありません。

佐藤 浩二郎

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