「フェルマーの最終定理」を読んだ感想の1つは、この超難問の解決に日本人がかなり貢献している、ということです。「岩澤理論」の岩澤健吉氏もそうですが、そもそもフェルマーの最終定理を証明するきっかけになったのは、この定理の証明が「谷山=志村予想」を証明することに懸かっている、という発見だったのです。この予想とは、「すべての有理数体上に定義された楕円曲線はモジュラーである」という主張らしいのですが、うーむ、やっぱり全然分かりません。志村五郎氏は2019年に亡くなりました。そのニュースは私も覚えています。谷山豊氏とその関係者の悲劇については、実際に本を読んでいただいた方がよいと思います。私は大きなショックを受けました。

サイモン・シンはこの本の他にも「暗号解読」や「宇宙創成」など読みやすい科学書を書いています。元々素粒子物理学の博士号を持っているような人で、それに加えて相当取材をしているのだと思います。しかし私にとってこの本が最も面白かったのは、実際に登場人物の生き様がドラマティックだったということもあるのでしょう。訳者の青木薫氏の文体もとても読みやすいものでした。

それにしても、日本発の一般向けの科学書がもっとあっても良いのではないかと思うのですが、あまり需要がないのでしょうか?・・・まあ、私が探し切れていないだけかもしれません。

1冊だけ感銘を受けた本を紹介しておきます。

「新しい自然学—非線形科学の可能性」蔵本由紀 今はちくま学芸文庫から出版されているかもしれません。蔵本先生は世界的な物理学者とのことで、直接お会いする機会には恵まれていませんが、この本を読んだ時に、その誠実な内容と、端正な文体にとても惹かれました。生物学を志す人たち(だけではないですが)にはお薦めできる一冊です。

佐藤 浩二郎

私的免疫学ことはじめ (38)← Prev     Next →私的免疫学ことはじめ (40)