私に与えられたテーマはTRAILというサイトカインです。TRAIL(TNF-related apoptosis-inducing ligandの略で、TNF(tumor necrosis factor, 腫瘍壊死因子)と呼ばれる有名なサイトカインと同じファミリーに属します。悪性腫瘍細胞を細胞死に陥らせる活性を持っており注目されていました。この分子がIFN-αやIFN-β、即ち「I型IFN (II型IFNはIFN-γを指す)」の刺激によりNK細胞の細胞表面に誘導されることが分かり、その機序を調べることになったのです。

I型IFNの刺激が細胞に入ると、これまたIRFファミリーの一員であるIRF-9が遺伝子のプロモーター部位に結合することで特定の遺伝子の転写が促進されます。TRAILもそのような遺伝子にコードされていることが予想されます。だからTRAILのプロモーター部位にはIRFファミリー分子の結合する、特徴的な配列があるはずです。その配列をISREと呼びます。Interferon stimulated response elementの略です。しかし、当時TRAILのプロモーターの配列など分かっていませんでした。TRAILのmRNA配列が分かっていただけです。そこでOK先生が教えてくれた技がゲノムライブラリーから、TRAILのmRNA配列と相同性のある部分を含むDNA断片をピックアップするという古典的な遺伝子クローニングでした。

OK先生の実験の準備の進め方は極めて慎重でした。手順が厳密に決まっており、一度失敗するとなかなかリカバリーができない実験です。絶対に失敗しないぞという強い意志が伝わってきました。まるで、失敗したら誰かに殺されるといわんばかりでした。(誰に?)
結局、全くミスすることなく最後の過程まで進み、目的とする遺伝子断片が取れてきました。その断片の遺伝子配列を読みます。大きなガラス板を磨いて2枚並べ、その隙間にゲルを流し込み、調整したDNAサンプルをそのゲルの中で電気泳動します。今ならガラス板などは使わず、毛細管の中に最初からゲルが詰まっている製品を使って電気泳動するところですが、当時はまだガラス板が一般的でした。私はゲル作りが上手ではなく、長い配列は読めなかったのですが、読めた配列の中にISREに似た配列がありました。教室の助教授だったTN先生の部屋を訪れて、見て頂いたのですが、「ああ、この配列なら(IRFは)くっつくんじゃない?」と言われて本当にホッとしました。

佐藤 浩二郎

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