2016年12月号のArthritis Rheumatol.誌の表紙は興味深いもので、RANKLによる破骨細胞分化の横にTNF/IL-6による破骨細胞分化が並んで骨を吸収している模式図です(O’Brien et al., 2016)。これは一見するとその約3年前の我々の報告と全く同じ内容の論文のようです。しかし流石にそんなことはなく(全く同じ内容だったら同じ雑誌に掲載されるはずがない)、大きな違いが一つあります。それは「RANKのコンディショナルノックアウトマウス」を利用していることです。RANKはRANKLの受容体であるため、RANKの欠損細胞でTNF+IL-6による破骨細胞分化が起きれば、これは「完全にRANKL非依存性」であることを強く主張できることになるわけです。我々はこの種のマウスを持っていなかったため、TNF+IL-6による破骨細胞分化がRANKLに依存していないことを示す目的でRANKLの囮受容体であるOPGを培養系に添加して、破骨細胞分化が阻害されないことを示しました。しかしこの方法では(OPGによって中和されずに残った)「微量なRANKL」が関係していることまでは否定できないことになります。このあたりは遺伝子改変動物を使った研究の有利な点だと思います。しかし当時、新しいマウスを手に入れて実験することに時間をかけてしまうと他のグループに競り負けてしまう可能性が高いと判断し、その実験は行わず投稿しました。後から考えてもその判断は間違っていなかったと思います。O’Brienらも我々の論文を見て「ギャーッ」と思ったかもしれません。彼らの論文には我々の論文は1ヶ所しか言及されておらず、もう少し先行論文に対するリスペクトがほしいものだと正直思いましたが、彼らの心情は想像できなくもありません。とにもかくにも、似たような論文が出ると理論の説得力(確からしさ)が増すので、歓迎すべきことだと思います。逆に、自分たちの論文が全然引用されず、再現性もとられず忘れられていくのは筆者として悲しいことです。

さて、このプロジェクトのきっかけとなったTEMPOスタディはTNF阻害とMTXを併用すると骨破壊が強力に抑制された、というデータですが、TNF+IL-6で破骨細胞が分化するという現象で説明可能でしょうか?MTXはIL-6の産生や下流のシグナルを抑制するという論文はいくつも出ているので一見整合性があるように見えます。しかしちょっと考えてみると、TNF阻害だけ(あるいはIL-6阻害だけ)で十分骨破壊が抑制されるという結果になることが予想されます。これはTEMPOスタディの結果と矛盾するようです。どのように解釈すれば良いでしょうか?ここで興味深い論文があります。2005年のJ Exp Med誌に載ったChoi博士のグループの論文です。

佐藤 浩二郎

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