さて、当科を受診する患者で一番多いのは関節リウマチ(rheumatoid arthritis, RA)患者であることは確かです。2番目は全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus, SLE)患者でしょう。

RAは有病率が0.5-1%くらいとされているようですがSLEはその1/10くらいと更に珍しい疾患です。同じ自己免疫疾患であるRAとSLEなので、合併してもおかしくないように思いますが、意外と合併しません。合併例はrhupus などと呼ばれることもあるようです。

どちらも多関節炎を来しやすい疾患ですが、その関節炎の特徴は結構違います。RAであると骨破壊を伴いやすいのですが、SLEの場合は「非破壊性」関節炎というのが特徴になっています。

以前書いたかもしれませんが、その昔T細胞の免疫応答がTh1/Th2に大別されていた頃は「臓器特異的自己免疫疾患であるRAはTh1応答がメインであり、全身性自己免疫疾患であるSLEはTh2応答がメインである」というような総説が出たりして、私もフムフム、なるほどと思って読んでいたものです。今になるとTh1/Th2で免疫応答を2分割するというのは物事を単純に見すぎていたと思います。私自身、破骨細胞の研究をしていて「RAで破骨細胞を誘導するのはTh1応答ではなく(より正確に言えば、Th1応答はむしろ強く破骨細胞分化を抑制するものであり)、Th17応答である」という仮説を2006年に報告した経緯があります。しかしながらこの仮説も抗IL-17抗体がRAではなく乾癬や乾癬性関節炎の特効薬として登場したことからあっさりグラつきました。

それでもなお私の頭の中ではRAとSLEとがやはり対立概念であるかのように存在していました。SLEは糸球体腎炎が起きやすいですがRAではそのようなことはありません。RAは炎症反応として血清中のCRPが上がりやすい疾患ですが、SLEは高熱が出ているような時もあまりCRPが上がりません。例外的に胸膜炎や腹膜炎を合併するとCRP高値を示すことが経験的に知られていますが・・・このように臨床症状も異なるのですが、もう一つには治療法がかなり異なっていたからです。

まあ特異性の低い免疫抑制薬であるステロイド(より正確にはグルココルチコイド)はどちらの疾患にも有効です。しかし多彩な副作用があるため他の薬を用いてステロイドの投与は必要最小限とし、可能であれば中止する、という戦略がどちらの疾患でも強調されています。ところがRAの治療を革新的に進歩させた生物製剤であるTNF阻害薬はSLEには適応を持っていません。

佐藤 浩二郎

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