2005年にSLEとIRF5遺伝子の一塩基多型(SNP)とが関連することが報告されました(Sigurdssonら)。これは北欧からの報告だったのですが、その後他の地域からも同様の関連が報告されるようになりました。
IRFはinterferon regulatory factorであり、転写因子ファミリーを形成しています。その多くは(1) IFNシグナルに関与する因子 (2) IFNで誘導される標的遺伝子 (3) IFNの発現を誘導する因子 でありそれらの役割が重複している分子もあります。したがってI型IFNの関与が強い疾患であるSLEでIRF-5の機能異常がある(かもしれない)というのは納得しやすい仮説です。前にも書いたと思いますが私はIRF-1, IRF-2を同定したラボで大学院生活を送っていました。その当時はIRF-1, IRF-2, IRF-3, IRF-7, IRF-9が解析の中心で、IRF-7以外のノックアウト(KO)マウスはすでに存在し、懸命にIRF-7のKOマウスが作られている最中でした。IRF-3とIRF-7とがI型IFNの産生に特に重要と考えられており、実際新たに作られたIRF-7KOマウスとIRF-3KOマウスを交配し、両欠損細胞は刺激をしてもI型IFN産生が起きないことが示されました。(新たに作られた、と書きましたがそこには血と涙の物語がありました。私は間近でそれを見て恐れおののいていただけですが・・・)
その結果を踏まえるとSLEの感受性因子にIRF-5があってもおかしくはないと思います。しかしなぜIRF-3や7ではないのだろう?とちょっと不思議には感じていました。(IRF-5とSLEとの関係についてはその後横浜市大から詳細な解析結果が報告されており(Ban et al., Nat Commun. 2021など), IRF-5がSLEの有力な治療標的であること、IRF-5がやはりI型IFNの産生にも寄与していること などが示されています。)
しかし私がより驚いたのは、IRF-5と関節リウマチとの関連も報告されるようになったことです。前回書いたようにSLEと関節リウマチとが対立するような疾患であればこのようなことは説明しにくいと思われます。(同一のSNPがSLEの感受性は増すが関節リウマチには逆に罹りにくくする、ということであれば対立仮説でも良さそうですが、どうやらそうではなさそうです。)
両者が反対方向を向いている疾患である、という単純な仮説は成立しそうもありません。少なくとも一部分においては同じ方向を見ている(=共通点のある)疾患と考えたほうがよいのかもしれません。
佐藤 浩二郎
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