2022年に私にとって興味深い論文が2つ相次いで報告されました。一つは
Iwasaki et al., Dynamics of Type I and Type II Interferon Signature Determines Responsiveness to Anti-TNF Therapy in Rheumatoid Arthritis (Front Immunol. 2022)です。この論文では関節リウマチをTNF阻害薬で治療する場合にどのような症例で継続が困難になるのか(つまり誰がnon-responderなのか)、を様々なサンプルをを網羅的に調べることで解析しています。特にI型およびII型IFNの標的分子の発現に注目しており、non-responderでは「治療前」からI型IFNシグナルが強く入っていること、また治療の「過程」でII型IFNシグナルがより強く入るようになっている ことを見出しています。
誰がnon-responderであるかを予め予想できれば関節リウマチ患者の予後をより改善できるでしょうし、医療経済的にも当然メリットがあります。しかし治療前に予測するのはなかなか難しそうであり、「途中経過」のデータも重要であることが示唆されます。
もう一つの論文はSakashita et al., Serum level of IFNβ distinguishes early from late relapses after biologics withdrawal in rheumatoid arthritis (Sci Rep. 2022)です。これは少し視点が異なっており、生物製剤で寛解に入った関節リウマチ患者で生物製剤投与を中止します。その後経時的に血清をサンプリングし、液性因子を定量します。一部の患者は関節リウマチが再燃してしまうのですが、その直前に変動した液性因子に注目する、という戦略です。再燃に先駆けて何が変化しているのか、ということです。その解析で抽出された液性因子はIFN-βでした。元々血清中のIFN-βはなかなか定量が難しいレベルしか存在していません。それが測定できるようになるとその後関節リウマチが再燃する、ということなのです。つまり血清IFN-βが測定感度以下である内は再燃のリスクは低い、ということを主張しています。
ここで、最初の論文ではIFN-α, βそのものを測定したわけではないことに注意が必要です。どちらのサイトカインも同じ受容体を介して細胞内にシグナルを入れ、I型IFNの標的遺伝子の発現を誘導します。その発現の程度を測定しているわけで、受容体に結合したのがIFN-αなのか、IFN-βであるのかは基本的に区別がつかないからです。後者の論文ではタンパク質レベルで定量しているので、IFN-βと主張しているからにはIFN-αではないことになります。このデータを見て私は思わず膝を打ちました(今はそういう人はいない?)。
佐藤 浩二郎
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