たとえばTNF阻害薬レミケード(インフリキシマブ)の添付文書を見ると、副作用の項目に自己抗体陽性(抗DNA抗体陽性、抗カルジオリピン抗体陽性、抗核抗体陽性)・・・などという記載があります。これらの自己抗体はSLEに見られるものです。むしろTNF阻害薬でSLE様の病態が「誘導」されてしまう可能性があるのです。これではSLEに対して適応を持たないのも当たり前です。SLEを発症したという症例報告は散見されますし、私自身もそのような患者さんを診たことがあります。
一方でSLEは血清中のI型IFNが増えている疾患でもあります。I 型IFNはウイルス性肝炎やある種の悪性腫瘍の治療薬として使われていましたが、I型IFNの副作用には血球減少、関節炎やSLEの発症または顕在化などが含まれています。
TNF-α→関節リウマチ
I型IFN→SLE
というような図式が考えられ、TNF阻害薬によるSLE様症状の発現を考えるとTNF-αとI型IFNがお互いに牽制し合うような関係なのではないか、という仮説を立てることも可能でしょう。
I型IFNは抗ウイルス活性に関わるサイトカインですし、TNF-αは阻害すると結核を発症しやすくなることで分かるように抗酸菌などの排除に重要なサイトカインです。つまり同じサイトカインと言っても役割ははっきりと異なります。というわけでこのような対立関係がありそうだ、と私も考えていました。実際そのような対立軸を示した総説はいくつも見つかります。たとえばImmunity 2006, 25 (3) 383-392やArthritis Research & Therapy 2010 12 219など。特に後者のFig. 1は当時の私からすると「これこれ、こういう感じだよ!」と思わせる概念図であり、I型IFNがTNF-α産生を阻害し、TNF-αがI型IFNの産生を阻害することでホメオスタシス(恒常性)が保たれている、という仮説です。
(TNF-α↑→I型IFN↓ かつ I型IFN↑→TNF-α↓)
しかしこの総説自体にまとめられているように、その仮説を支持する実験事実も、仮説に反する実験事実もそれぞれが複数論文化されており混沌としています。それ自体はまあよくある話なのですが、ある時「この仮説ではダメかもしれない」と思わせるような論文の存在に気づきました。
佐藤 浩二郎
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