ようやく研究の目的だったトランスクリプトーム解析を実行する段階までやってきました。サンプルはshort form特異的KOマウス由来の単球系細胞をRANKLで刺激したもの/していないもの、対照として野生型(WT)マウス由来の単球系をRANKLで刺激したもの/していないもの、の4種類になります。

Applied biosystems社のTACというフリーのソフトウェアで4検体を比較してみると・・・まずWTのRANKL-とRANKL+。これは当然、後者で破骨細胞のマーカーとなる分子の発現が増えているはずです。最も増えていたのがAcp5で、6800倍くらいになっています。これは酒石酸耐性酸ホスファターゼ(Tartrate-Resistant Acid Phosphatase, TRAP)をコードしています。私達は通常破骨細胞をTRAP染色陽性の多核細胞として認識しているのでこれがトップに来るのは納得です。3位と4位にDcstamp (約740倍), Ocstamp(osteoclast stimulatory transmembrane protein, 約700倍)がランクイン、7位にOscar (osteoclast associated receptor, 約180倍)が入っています。10位以降も22番にCtsk (cathepsin K, 28倍)、32位にCalcr (calcitonin receptor, 25倍)など、有名な破骨細胞のマーカーは軒並み上位に顔を出しています。この造血幹細胞由来の単核球は確かにRANKLに応答して破骨細胞に分化していることが確認できました。次にKO細胞のRANKL-, RANKL+を比べてみます。ここでもAcp5は約1600倍に増えており2位、Ocstamp, Dcstampも370倍、360倍で3位と4位、Ctskが110倍で7位に入っており、このKO細胞にもRANKLのシグナルはちゃんと入っているようで、「破骨細胞のような細胞」にはなっているようです。ではWTとKO細胞の違いはどこにあるでしょうか?いよいよWTとKOのRANKL+同士を比較してみます。一番発現に差があったのはKO細胞で1/330になっているOscarでした。16位にCalcrが入っています(1/21倍)。Oscarがトップというのは個人的には感慨深いものがありました。というのは医科歯科時代の2005年にOscarのプロモーター解析をして、Nfatc1の強制発現に応答することをJ Biol Chem誌に報告していたからです。この時はNfatc1の強制発現実験と、それの逆の実験としてRNA interference (RNAi)という手法でNfatc1の発現を低下させていましたが、RNAiだとNfatc1を完全に無くすことはできず、せいぜい1/5くらいにしかできませんでした。今回はノックアウトなのでNfatc1のshort formは0%です。約20年を経て確認実験をやったことになり、Oscarの発現はNfatc1の内short formに強く依存していることも明らかになりました。

佐藤 浩二郎

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