Nfatc1自体の発現量はどうでしょうか。WTではRANKL刺激によって約13倍になっています。これは(short+middle+long)/(middle+long)に相当することに注意が必要です。このGeneChipではこれらのバリアントを区別していないのです。KOの場合、RANKL刺激で2.6倍という結果でした。Short formはKO細胞でもmRNAレベルでは誘導されます。ちゃんとしたタンパクにならないだけです。WTとKOとでNfatc1の誘導に差があるのは、Nfatc1 short formの誘導がNfatc1 short form自体によって主に担われていること、middleやlong formが存在してもshort formの誘導には不十分であること(=ポジティブ・フィードバックループが回らないこと)を示唆します

さて、Nfatc1 short formのKO細胞で破骨細胞が多核にならなかったのはどうしてでしょうか。OscarはKOしても多核にはなれることが知られているので、これでは説明できないでしょう。KO細胞で発現の落ちている他の分子を見てみました。

4番目におちているAblim1 (actin-binding LIM protein 1, 1/60倍), 8番目のMyo1d (myosin ID , 1/35倍)あたりは細胞骨格に関連するので運動が比較的激しく、しかも癒合する破骨細胞分化に重要かもしれません。22位、34位にランクインしているItga2 (integrin aloha 2, 1/15倍), Itgb3 (integrin beta 3, 1/10倍)は接着分子インテグリンの構成要素なのでこれも関係あるかもしれません。

6位のMst1r(macrophage stimulating 1 receptor (c-met-related tyrosine kinase), 1/40倍)もこのリガンドであるmacrophage-stimulating protein (MSP)からシグナルが入ると破骨細胞の活性化につながることが報告されています。

これらの分子がNfatc1 short formの転写標的であり、それらの発現が落ちていることでちゃんとした破骨細胞が分化できないのではないかと想像しています。

トランスクリプトーム解析をする前に見つけたネガティブ・フィードバック分子の候補であるDSCR-1はどうでしょうか。これはRcan1という遺伝子にコードされるタンパクですが、Rcan1の発現はWTではRANKL刺激で10.5倍くらいに増えています。KOでは増加は2.6倍であり、WTとKOの間で比べると6.5倍の差があります。やはりNfatc1 short form→Rcan1→NFATシグナルの抑制 という経路はありそうです。

佐藤 浩二郎

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