SENDA/BPANはオートファジー機能障害により
脳に鉄が沈着する疾患です。
- 概要
- 私たちは、日本医療研究開発機構および厚生労働省の支援により、SENDA/BPANを研究しています。この疾患は、WDR45変異によるX染色体顕性遺伝性疾患で、脳の鉄沈着を伴う神経変性疾患(Neurodegeneration with brain iron accumulation; NBIA)の代表疾患です。小児期は非進行性の重度知的障害、成人期以降に進行性の運動機能障害や認知機能障害を呈し、脳MRIでは大脳黒質や淡蒼球に鉄沈着所見を認めます。
- 疫学
- 10万人に1人とされるNBIAのうち約45%が本疾患であり、未診断例が多いと予測され、多くの患者さんは女性です。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK121988/ - 原因
- X染色体にあるWDR45がコードするWIPI4タンパクの機能不全によるものです。WDR45はオートファジー機能の中核遺伝子であり、オートファジー機能障害により、細胞の維持管理機構が破綻し、特に中枢神経系組織で症状をきたします。神経病理学的には黒質と淡蒼球に鉄沈着と神経変性を認めます。
- 症状
- 小児期には言語機能を主とする知的障害を呈します。一方、運動機能は緩徐に発達して独歩を獲得します。幼少期にはてんかんを合併することも多く、一部はてんかん性脳症を発症します。20歳代を過ぎるとジストニアやパーキンソン様症状が急速に進行し、認知症が加わり高次機能を喪失して数年で臥床状態となります。
- 検査
所見 - 脳MRIでは黒質と淡蒼球にT1強調画像で高信号、T2強調画像で低信号を認め、鉄沈着を反映します。黒質ではT1強調画像で中心に線状の低信号を伴います。また、進行すると大脳萎縮も顕著となります。しかし、小児期はT1/T2強調画像では鉄沈着所見を確認できず、鋭敏に鉄を検出できるT2*強調画像や磁化率強調画像(SWI)での撮影が必要となります。
- 治療
- 根治療法は確立していません。対症療法として抗けいれん薬やドパミン製剤を使用をします。また、intrathecal baclofen therapy(ITB療法)やbotulinum toxin(BTX)療法を併用することでジストニアの進行が緩和される症例もあります。
- 患者会
- SENDA/BPAN家族会
https://www.senda-bpan.com
SENDA/BPANの診断方法(小児慢性特定疾病診断基準)
- Ⅰ. 主要臨床症状
- ❶ 知的障害
- ❷ 進行性の運動機能障害
- ▪ジストニア
- ▪固縮、すくみ足
- ▪痙縮
- Ⅱ. 重要な検査所見
- ❶ 脳MRI:黒質と淡蒼球に鉄沈着所見を反映して、T1強調画像で高信号、T2強調画像で低信号域を呈し、さらに黒質にT1強調画像で中心に線状の低信号を伴う(T2*および磁化率強調像(SWI)であれば上記所見は早期に検出可能)
- ❷ 遺伝子解析: WDR45に病的バリアントを認める
- Ⅲ. しばしば認める症状・所見
- ▪てんかん(West症候群などてんかん性脳症を含む)
- ▪手もみなどの常同運動(Rett症候群に似ている)
- ▪体温調節障害
- ▪睡眠障害
- ▪知的退行
- ▪脳波:高振幅速波
(薬物速波あるいはextreme spindle様である) - ▪血液検査:NSE上昇
- Ⅳ.鑑別診断
他のNBIA(PKAN、INADなど)、レット(Rett)症候群
- Ⅴ. 診断基準
確実例:Ⅰ とⅡ-2を満たす場合
疑い例:Ⅰ を満たし、かつⅡ-1のみの場合
ただしⅠ-2は小児期には必須ではない
- 研究班
日本医療研究開発機構(AMED)
難治性疾患実用化研究事業研究代表者
- 村松 一洋
- 自治医科大学小児科学
研究分担者
- 清水 宏
- 新潟大学脳研究所病理学
- 髙野 亨子
- 信州大学病院遺伝子医療センター
- 城所 博之
- 名古屋大学病院小児科
- 山形 崇倫
- 自治医科大学小児科学
- 小坂 仁
- 自治医科大学小児科学
研究協力者
- 村松 慎一
- 自治医科大学神経遺伝子治療学
- 松本 歩
- 自治医科大学人類遺伝学
- 小島 華林
- 自治医科大学小児科学
- 月田貴和子
- 自治医科大学小児科学