私たちの研究室では、電子顕微鏡による微細構造解析を軸に、ライブイメージング、遺伝子改変動物の作製、分子生物学的解析、機械学習を用いた画像解析、さらに多角的な動物行動試験まで、幅広い手法を統合して研究を進めています。「目で見て考える」形態学の面白さ、そして最先端のイメージング技術で生命の謎に迫る醍醐味を、一緒に体験しませんか。

一緒に研究しませんか? 大学院生、研究員募集中

大学院生(修士・博士課程)、ポスドクなど、興味をお持ちの方はお気軽にご連絡ください。研究室見学も随時受け付けています。

大学院生への経済的支援:次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)

自治医科大学は、令和7年度よりJST(国立研究開発法人科学技術振興機構)の次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)に採択されています。本プログラムでは、選抜された博士課程学生に対して生活費相当額および研究費が支給され、経済的な心配なく研究に専念できる環境が整備されています。キャリア開発・育成コンテンツの提供や国際性の涵養など、多面的な支援が受けられます。

詳細は 自治医科大学 SPRING プログラムのページ をご覧ください。

以下に現在の主要な研究テーマを紹介します。

Theme 01

脱髄疾患の病態解明と髄鞘再生

神経線維を包む「髄鞘(ミエリン)」は、電気信号の高速伝導や軸索の保護に不可欠な構造です。この髄鞘が壊れてしまう「脱髄」は、多発性硬化症などの難病の原因となります。壊れた髄鞘をどうすれば再生できるのか ―― 私たちはこの問いに、動物モデルの開発から治療薬の探索まで多面的に挑んでいます。

独自の脱髄モデルの開発

脱髄が運動機能にどのような影響を与えるかを正確に評価するためには、運動に直接関わる部位で脱髄を再現するモデルが必要です。私たちは、大脳から脊髄への運動指令の通り道である内包に局所的な脱髄を誘導するマウスモデルを開発しました。このモデルでは脱髄に伴い顕著な運動障害が生じ、再髄鞘化とともに運動機能が回復します。髄鞘再生を促進する薬剤の評価にも利用でき、治療法開発の有力なツールとなっています。

Yamazaki & Ohno, Acta Histochem Cytochem 57(1), 2024 / Yamazaki et al., J Neurochem 2020 / Yamazaki, Osanai et al., Neurochem Int 164, 2023

白質病変における I 型コラーゲンの発見

脱髄した組織がなかなか再生しないのはなぜか。この疑問に対して、私たちは脱髄部位に I 型コラーゲンが蓄積し、これがオリゴデンドロサイト(髄鞘をつくる細胞)の分化を阻害して再髄鞘化を妨げることを発見しました。さらに、マクロファージがこのコラーゲンの産生源であることを明らかにしています。ヒトの多発性硬化症脳組織でも同様のコラーゲン蓄積が確認されており、髄鞘再生を阻む新たな標的分子として注目されています。

Yamazaki, Azuma, Osanai et al., Cell Death Dis 16(1), 2025 / Inagaki, Fujiwara, Shinohara et al., Histochem Cell Biol 155(4), 2021 / Yamazaki & Ohno, Anat Sci Int 2025

髄鞘再生を促す薬剤の探索

既存薬のなかから髄鞘再生を促進する候補を見出す「ドラッグリポジショニング」の取り組みも進めています。抗ヒスタミン薬クレマスチンは、オリゴデンドロサイトの分化を促進し再髄鞘化を促すことが知られていますが、その詳細なメカニズムや臨床応用の可能性について検討を行っています。

Yamazaki & Ohno, Front Cell Neurosci 19, 2025 / Yamazaki, Osanai et al., Neurochem Int 164, 2023

多発性硬化症患者の病変部におけるコラーゲンの蓄積
 多発性硬化症患者の病変部におけるコラーゲンの蓄積。Yamazaki, Azuma, Osanai et al., Cell Death Dis 16(1), 2025より
Theme 02

経験・活動による髄鞘の可塑的変化

脳の「配線」は固定的なものではありません。近年、学習や感覚経験によって髄鞘の厚さや長さが変化し、神経回路の機能が調節されることが分かってきました。こうした「髄鞘の可塑性」のメカニズムを解明し、脳の適応能力の理解を目指しています。

感覚経験が髄鞘構造を変える

生後の視覚経験が髄鞘形成にどのように影響するかを調べるため、暗所飼育(視覚遮断)モデルを用いた研究を行っています。視覚の臨界期に暗所で飼育されたマウスでは、視覚路の髄鞘化軸索に構造的変化が生じることを見出しました。さらに、トランスクリプトーム解析などのアプローチから、この可塑的な髄鞘変化に神経伝達物質GABAが関与することを明らかにしつつあります。

Osanai, Battulga et al., Neurochem Res 47(9), 2022 / Osanai, Battulga, Yamazaki et al., bioRxiv 2025 / Osanai, Shimizu et al., Glia 66(11), 2018

1つのオリゴデンドロサイトが担う多様な軸索

1個のオリゴデンドロサイトは数十本もの軸索に髄鞘を巻きつけますが、それぞれの髄鞘の長さや太さは一様ではありません。SBF-SEMによる3次元再構築を用いた研究から、単一のオリゴデンドロサイトが異なる脳領域に由来する軸索を同時に髄鞘化することや、軸索の種類に応じて髄鞘形態を変えていることが分かりました。こうしたオリゴデンドロサイトの「個性」と「選択性」の理解は、髄鞘可塑性の細胞レベルでのメカニズム解明につながると考えています。

Battulga, Osanai et al., Glia 73(4), 2025 / Osanai, Shimizu et al., Glia 65(1), 2017 / Osanai, Yamazaki et al., Front Cell Dev Biol 10, 2022

加齢に伴う髄鞘形成能の低下

加齢とともに新しく生まれるオリゴデンドロサイトの数が減少し、髄鞘形成能が低下することを、老齢マウスの脳梁を対象とした定量的解析で明らかにしました。これらのオリゴデンドロサイトの形態にも変化が見られ、加齢に伴う認知機能低下やニューロン脆弱性との関連が示唆されます。

Looprasertkul, Yamazaki, Osanai & Ohno, Glia 73(11), 2025

神経細胞の活動操作による髄鞘の形態学的変化
神経細胞の活動操作による髄鞘の形態学的変化。Osanai, Battulga, Yamazaki et al., bioRxiv 2025より
Theme 03

ミトコンドリアとオルガネラの動態

ミトコンドリアは細胞の「エネルギー工場」として知られますが、実は絶えず分裂・融合を繰り返し、細胞内を移動し、形を変えるダイナミックな小器官です。この動態の異常は神経変性疾患をはじめ多くの疾患と密接に関わっています。

脱髄軸索におけるミトコンドリアの変化

髄鞘を失った軸索ではミトコンドリアに何が起きるのか。SBF-SEMによる3次元解析から、慢性脱髄モデルの小脳シナプス終末ではミトコンドリアの数が減少する一方でサイズが増大し、膨化したミトコンドリアが蓄積することを見出しました。また、脱髄軸索ではミトコンドリアと小胞体の接触(MAM: mitochondria-associated ER membrane)が増加しており、両者の相互作用の変化がエネルギー代謝やカルシウム動態に影響を与えている可能性があります。

Nguyen, Sui et al., Med Mol Morphol 51(4), 2018 / Thai, Nguyen et al., Med Mol Morphol 52(3), 2019 / Sui et al., Adv Exp Med Biol 1190, 2019

ミクログリアのミトコンドリア動態と神経炎症

脱髄病変に集まるミクログリア(脳の免疫細胞)のミトコンドリアの形態を、SBF-SEMで3次元的に再構築し解析しました。ミクログリアのミトコンドリアの分裂・融合バランスは個々の細胞で多様であり、このバランスの変化が神経炎症の表現型に影響を与えることを明らかにしました。単球由来マクロファージとミクログリア由来マクロファージで形態が異なることも示し、炎症応答の不均一性を細胞構造の面から解き明かしています。

Katoh, Wu et al., Sci Rep 7(1), 2017

炎症刺激によるミトコンドリアの形態変化
炎症刺激によるミトコンドリアの形態変化。Katoh, Wu et al., Sci Rep 7(1), 2017より
Theme 04

認知・情動を司る脳ー末梢代謝連関

ストレスや加齢が脳の構造や機能にどう影響するのか。ボリューム電子顕微鏡やマルチオミクス解析、行動解析を通じて明らかにしています。ストレスを主要リスクとするうつ病は、糖尿病など慢性代謝疾患との共罹患疾患であり、脳や末梢の代謝変化が認知や情動の制御に重要であることが分かりつつあります。

慢性ストレスが脳・末梢の代謝・免疫機構に与える影響とその行動における意義

ストレスは脳や末梢に代謝・免疫変化を生じ、さらに情動変化や認知機能の低下を示しますが、その際に内因性の炎症収束性脂質メディエーターの減少を生じることを明らかにしました。現在は高次脳機能および全身の代謝制御に重要な前頭前皮質に生じる変化を解析しています。

Higashida, Nagai et al., Sci Rep 2018 / Akiyama, Nagai et al., Sci Rep 2022 / Horikawa, Nagai et al. J Pharmacol Sci 2024 / Nagai, Microscopy 2024

シナプスのミトコンドリアと加齢性認知機能低下

加齢に伴う認知機能の低下には個人差があります。加齢マウスの前頭前野シナプスにおけるミトコンドリアの酸化ストレスが認知機能低下の個体差を規定する因子であることを見出しました。ボリューム電子顕微鏡の技術を活かし、シナプスレベルでの構造変化と機能との対応を解析しています。

Yamada, Nagai et al., bioRxiv 2026, Yamada, Nagai et al., bioRxiv 2026, Yamada, Nagai et al., J Pharmacol Sci 2025

シナプスの微細形態学的解析による形態学的恒常性の解明

シナプスは日々の経験や睡眠によって形態・数を変化させますが、その実態にはまだまだ不明な点が多いです。マウスにおいて睡眠がシナプス構造を縮小し、新たな学習のための余地を作る作用があることを示唆しました。さらに、幼若期における長期断眠が不可逆的に樹状突起の形態異常を招くことを見出しました。これらはボリューム電子顕微鏡を用いて得られた知見であり、今後も多様な病態生理への展開が期待されます。

Nagai, de Vivo et al., Sleep 2017 / de Vivo, Nagai et al., Sleep 2019 / Nagai, de Vivo et al., eNeuro 2021

ボリューム電子顕微鏡によるシナプスの立体再構成
ボリューム電子顕微鏡によるシナプスの立体再構成。de Vivo, Nagai et al., Sleep 2019より
Theme 05

ボリューム電子顕微鏡技術の開発と応用

従来の電子顕微鏡は組織の「薄い一断面」しか見ることができませんでした。SBF-SEM(連続ブロック表面走査型電子顕微鏡)は、試料のブロック表面を自動で薄く削りながら撮影を繰り返すことで、組織の3次元的な微細構造を丸ごと可視化する革新的な技術です。私たちはこの技術の改良と、神経科学をはじめとする幅広い分野への応用を推進しています。

導電性樹脂によるイメージング品質の向上

SBF-SEMでは試料表面のチャージング(帯電)がイメージング品質を著しく低下させます。私たちは導電性樹脂をSBF-SEM試料の包埋に応用することで、チャージングを大幅に低減し、画像の解像度を向上させる手法を開発しました。この技術改良によって、より高品質な大容量の3次元データが取得できるようになっています。

Nguyen, Thai et al., Front Neural Circuits 12, 2018 / Nguyen, Thai et al., Sci Rep 6, 2016

神経回路の3次元的な構造解析

SBF-SEMを用いることで、特定の遺伝子や分子マーカーで標識された神経回路を超微形態レベルで3次元的に再構築し、解析することが可能です。光学顕微鏡で特定の細胞を標識し、電子顕微鏡でその微細構造を観察する「相関光・電子顕微鏡法(CLEM)」も組み合わせ、より精密な回路構造の理解を進めています。

Ohno, Karube & Fujiyama, Neurosci Res 2024 / Abe & Ohno, Microscopy 2024 / Ohno et al., Microscopy 65(2), 2016

分野を超えた幅広い共同研究

SBF-SEMの技術は神経科学にとどまらず、腎臓病理学、植物学、消化器学、皮膚科学、心臓血管外科学、発生生物学など多様な分野の研究にも応用されています。嚢胞腎モデルの線毛形態解析、ヤツメウナギの頭部中胚葉の進化発生学的研究、タバコの花粉母細胞における核の移動現象など、「3次元の目」によって初めて明らかになる生命現象の解明に挑んでいます。

Kumamoto, Kagami et al., Sci Rep 2026 / Onai, Adachi et al., iScience 26(12), 2023 / Mursalimov et al., Front Plant Sci 2021 / Ezure et al., Sci Rep 2025

電顕ラベルによる特異的神経細胞の超微細構造解析
電顕ラベルによる特異的神経細胞の超微細構造解析。Ohno, Karube, Fujiyama, Neurosci Res 2024より