一緒に研究しませんか? 大学院生、研究員募集中
大学院生(修士・博士課程)、ポスドクなど、興味をお持ちの方はお気軽にご連絡ください。研究室見学も随時受け付けています。
大学院生への経済的支援:次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)
自治医科大学は、令和7年度よりJST(国立研究開発法人科学技術振興機構)の次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)に採択されています。本プログラムでは、選抜された博士課程学生に対して生活費相当額および研究費が支給され、経済的な心配なく研究に専念できる環境が整備されています。キャリア開発・育成コンテンツの提供や国際性の涵養など、多面的な支援が受けられます。
詳細は 自治医科大学 SPRING プログラムのページ をご覧ください。
以下に現在の主要な研究テーマを紹介します。
脱髄疾患の病態解明と髄鞘再生
独自の脱髄モデルの開発
脱髄が運動機能にどのような影響を与えるかを正確に評価するためには、運動に直接関わる部位で脱髄を再現するモデルが必要です。私たちは、大脳から脊髄への運動指令の通り道である内包に局所的な脱髄を誘導するマウスモデルを開発しました。このモデルでは脱髄に伴い顕著な運動障害が生じ、再髄鞘化とともに運動機能が回復します。髄鞘再生を促進する薬剤の評価にも利用でき、治療法開発の有力なツールとなっています。
Yamazaki & Ohno, Acta Histochem Cytochem 57(1), 2024 / Yamazaki et al., J Neurochem 2020 / Yamazaki, Osanai et al., Neurochem Int 164, 2023
白質病変における I 型コラーゲンの発見
脱髄した組織がなかなか再生しないのはなぜか。この疑問に対して、私たちは脱髄部位に I 型コラーゲンが蓄積し、これがオリゴデンドロサイト(髄鞘をつくる細胞)の分化を阻害して再髄鞘化を妨げることを発見しました。さらに、マクロファージがこのコラーゲンの産生源であることを明らかにしています。ヒトの多発性硬化症脳組織でも同様のコラーゲン蓄積が確認されており、髄鞘再生を阻む新たな標的分子として注目されています。
Yamazaki, Azuma, Osanai et al., Cell Death Dis 16(1), 2025 / Inagaki, Fujiwara, Shinohara et al., Histochem Cell Biol 155(4), 2021 / Yamazaki & Ohno, Anat Sci Int 2025
髄鞘再生を促す薬剤の探索
既存薬のなかから髄鞘再生を促進する候補を見出す「ドラッグリポジショニング」の取り組みも進めています。抗ヒスタミン薬クレマスチンは、オリゴデンドロサイトの分化を促進し再髄鞘化を促すことが知られていますが、その詳細なメカニズムや臨床応用の可能性について検討を行っています。
Yamazaki & Ohno, Front Cell Neurosci 19, 2025 / Yamazaki, Osanai et al., Neurochem Int 164, 2023
経験・活動による髄鞘の可塑的変化
感覚経験が髄鞘構造を変える
生後の視覚経験が髄鞘形成にどのように影響するかを調べるため、暗所飼育(視覚遮断)モデルを用いた研究を行っています。視覚の臨界期に暗所で飼育されたマウスでは、視覚路の髄鞘化軸索に構造的変化が生じることを見出しました。さらに、トランスクリプトーム解析などのアプローチから、この可塑的な髄鞘変化に神経伝達物質GABAが関与することを明らかにしつつあります。
Osanai, Battulga et al., Neurochem Res 47(9), 2022 / Osanai, Battulga, Yamazaki et al., bioRxiv 2025 / Osanai, Shimizu et al., Glia 66(11), 2018
1つのオリゴデンドロサイトが担う多様な軸索
1個のオリゴデンドロサイトは数十本もの軸索に髄鞘を巻きつけますが、それぞれの髄鞘の長さや太さは一様ではありません。SBF-SEMによる3次元再構築を用いた研究から、単一のオリゴデンドロサイトが異なる脳領域に由来する軸索を同時に髄鞘化することや、軸索の種類に応じて髄鞘形態を変えていることが分かりました。こうしたオリゴデンドロサイトの「個性」と「選択性」の理解は、髄鞘可塑性の細胞レベルでのメカニズム解明につながると考えています。
Battulga, Osanai et al., Glia 73(4), 2025 / Osanai, Shimizu et al., Glia 65(1), 2017 / Osanai, Yamazaki et al., Front Cell Dev Biol 10, 2022
加齢に伴う髄鞘形成能の低下
加齢とともに新しく生まれるオリゴデンドロサイトの数が減少し、髄鞘形成能が低下することを、老齢マウスの脳梁を対象とした定量的解析で明らかにしました。これらのオリゴデンドロサイトの形態にも変化が見られ、加齢に伴う認知機能低下やニューロン脆弱性との関連が示唆されます。
Looprasertkul, Yamazaki, Osanai & Ohno, Glia 73(11), 2025
ミトコンドリアとオルガネラの動態
脱髄軸索におけるミトコンドリアの変化
髄鞘を失った軸索ではミトコンドリアに何が起きるのか。SBF-SEMによる3次元解析から、慢性脱髄モデルの小脳シナプス終末ではミトコンドリアの数が減少する一方でサイズが増大し、膨化したミトコンドリアが蓄積することを見出しました。また、脱髄軸索ではミトコンドリアと小胞体の接触(MAM: mitochondria-associated ER membrane)が増加しており、両者の相互作用の変化がエネルギー代謝やカルシウム動態に影響を与えている可能性があります。
Nguyen, Sui et al., Med Mol Morphol 51(4), 2018 / Thai, Nguyen et al., Med Mol Morphol 52(3), 2019 / Sui et al., Adv Exp Med Biol 1190, 2019
ミクログリアのミトコンドリア動態と神経炎症
脱髄病変に集まるミクログリア(脳の免疫細胞)のミトコンドリアの形態を、SBF-SEMで3次元的に再構築し解析しました。ミクログリアのミトコンドリアの分裂・融合バランスは個々の細胞で多様であり、このバランスの変化が神経炎症の表現型に影響を与えることを明らかにしました。単球由来マクロファージとミクログリア由来マクロファージで形態が異なることも示し、炎症応答の不均一性を細胞構造の面から解き明かしています。
Katoh, Wu et al., Sci Rep 7(1), 2017
認知・情動を司る脳ー末梢代謝連関
慢性ストレスが脳・末梢の代謝・免疫機構に与える影響とその行動における意義
ストレスは脳や末梢に代謝・免疫変化を生じ、さらに情動変化や認知機能の低下を示しますが、その際に内因性の炎症収束性脂質メディエーターの減少を生じることを明らかにしました。現在は高次脳機能および全身の代謝制御に重要な前頭前皮質に生じる変化を解析しています。
Higashida, Nagai et al., Sci Rep 2018 / Akiyama, Nagai et al., Sci Rep 2022 / Horikawa, Nagai et al. J Pharmacol Sci 2024 / Nagai, Microscopy 2024
シナプスのミトコンドリアと加齢性認知機能低下
加齢に伴う認知機能の低下には個人差があります。加齢マウスの前頭前野シナプスにおけるミトコンドリアの酸化ストレスが認知機能低下の個体差を規定する因子であることを見出しました。ボリューム電子顕微鏡の技術を活かし、シナプスレベルでの構造変化と機能との対応を解析しています。
Yamada, Nagai et al., bioRxiv 2026, Yamada, Nagai et al., bioRxiv 2026, Yamada, Nagai et al., J Pharmacol Sci 2025
シナプスの微細形態学的解析による形態学的恒常性の解明
シナプスは日々の経験や睡眠によって形態・数を変化させますが、その実態にはまだまだ不明な点が多いです。マウスにおいて睡眠がシナプス構造を縮小し、新たな学習のための余地を作る作用があることを示唆しました。さらに、幼若期における長期断眠が不可逆的に樹状突起の形態異常を招くことを見出しました。これらはボリューム電子顕微鏡を用いて得られた知見であり、今後も多様な病態生理への展開が期待されます。
Nagai, de Vivo et al., Sleep 2017 / de Vivo, Nagai et al., Sleep 2019 / Nagai, de Vivo et al., eNeuro 2021
ボリューム電子顕微鏡技術の開発と応用
導電性樹脂によるイメージング品質の向上
SBF-SEMでは試料表面のチャージング(帯電)がイメージング品質を著しく低下させます。私たちは導電性樹脂をSBF-SEM試料の包埋に応用することで、チャージングを大幅に低減し、画像の解像度を向上させる手法を開発しました。この技術改良によって、より高品質な大容量の3次元データが取得できるようになっています。
Nguyen, Thai et al., Front Neural Circuits 12, 2018 / Nguyen, Thai et al., Sci Rep 6, 2016
神経回路の3次元的な構造解析
SBF-SEMを用いることで、特定の遺伝子や分子マーカーで標識された神経回路を超微形態レベルで3次元的に再構築し、解析することが可能です。光学顕微鏡で特定の細胞を標識し、電子顕微鏡でその微細構造を観察する「相関光・電子顕微鏡法(CLEM)」も組み合わせ、より精密な回路構造の理解を進めています。
Ohno, Karube & Fujiyama, Neurosci Res 2024 / Abe & Ohno, Microscopy 2024 / Ohno et al., Microscopy 65(2), 2016
分野を超えた幅広い共同研究
SBF-SEMの技術は神経科学にとどまらず、腎臓病理学、植物学、消化器学、皮膚科学、心臓血管外科学、発生生物学など多様な分野の研究にも応用されています。嚢胞腎モデルの線毛形態解析、ヤツメウナギの頭部中胚葉の進化発生学的研究、タバコの花粉母細胞における核の移動現象など、「3次元の目」によって初めて明らかになる生命現象の解明に挑んでいます。
Kumamoto, Kagami et al., Sci Rep 2026 / Onai, Adachi et al., iScience 26(12), 2023 / Mursalimov et al., Front Plant Sci 2021 / Ezure et al., Sci Rep 2025