2010年02月25日 16:02
シミュレーションを利用した医療教育の意義とその分類
医療従事者には患者にとって最適な治療を行うという責任があり、患者の命を救うためには最善を尽くす必要があります。一方で、座学だけでなく、生身の患者を相手にすることで初めて技術に磨きをかけることができるという場合もあり、その葛藤に悩まされます。人道的に問題のある行為ではありますが、「鎮静状態の患者や末期患者を利用した医療訓練」という考え方も存在していました。
シミュレーションを用いた医学教育(Simulation Based Medical Education, SBME)はこれらの問題を同時に解決するための方法論としてとらえられています。生身の患者を相手にするのに近い環境を仮想的に作り出すことで、実践にきわめて近い訓練を行うことが可能となるわけです。
現在、医療におけるシミュレーションベースの教育手法は、大きく分けて以下の5種類が存在しています。
- Low-tech simulation(ローテク シミュレーション)
- 簡単な物理的操作や手順を練習するために、モデルやマネキン人形を利用する。
- Simulated / standardized patients(模擬患者)
- 問診や検査、コミュニケーションスキルの訓練のために、患者を演じる役割のスタッフを利用する。
- Screen-based computer simulators (コンピュータシミュレータ)
- 診療知識や意思決定の訓練および評価のためのコンピュータプログラム。利用事例としては手術中における緊急時インシデントマネジメント、課題ベース学習、心臓病学における理学的な判断、救命措置などが挙げられる。
- Complex task trainers(複雑タスク訓練)
- 高忠実度の視覚的・聴覚的・触覚的な情報や現場と同様のツールなどがコンピュータに統合されている。バーチャルリアリティ機器によって臨床背景の再現が可能。例としては、超音波診断、気管支鏡検査法、心臓病学、腹腔鏡手術、関節鏡検査(法)、S状結腸鏡検査(法)、歯科などがある。
- Realistic patient simulators(患者シミュレータ)
- コンピュータ制御が可能な等身大マネキン。人工的な生体構造や生理学を用いることで、複雑かつリスクの高い臨床状態を擬似的に扱うことができる。チームトレーニングや複数のシミュレーション機器を組み合わせることも可能である。
状況に応じてこれらのシミュレーションを使い分け、適切な訓練を行うことで、医療従事者のスキルを高めることが可能となり、医療安全の向上へとつながります。
参考文献
Amitai Ziv, Paul Root Wolpe, et al. Simulation-Based Medical Education:An Ethical Imperative, Academic Medicine, 78(8), pp783-788, 2003