遺伝子治療

『AADC欠損症に対する遺伝子治療』は、ほぼ欠損しているAADCという酵素の正常な遺伝子を、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを使って脳内の被殻(線条体)という部分の細胞に入れAADCを作らせる治療法です。その結果、欠乏していたドパミンやセロトニンが効率よく作られるようになり、運動機能が改善することが期待されます。

進行性パーキンソン病に対して、AADCを用いた遺伝子治療の臨床研究は、日本と米国において平行して行われています。自治医科大学附属病院では、症状が進行してレボドパの効きが悪くなった患者さんを対象にこの臨床研究を実施した実績があります。

2010年から台湾でAADC欠損症に対する遺伝子治療が開始され、運動機能の改善が2012年に報告されています。その報告と同様の方法で、2015年6月から、日本においても、自治医科大学及び自治医科大学子ども医療センターにおいて、AADC欠損症に対する遺伝子治療を臨床研究として実施しています。

AADC遺伝子を運ぶのは、AAV(2型)ベクターです。AAVは病原性がなく、神経細胞に効率よく遺伝子を導入できます。図にありますように、元のウイルス由来の遺伝子の一部を取り除いて、ヒトのAADCを合成する遺伝子を搭載した治療用ベクターを作製しています。

この治療用ベクターを、定位脳手術という手術法により脳内の被殻(線条体)に、専用の注射針を用いてゆっくりと注入します。注入目標は、手術に先立って撮影したMRI画像に基づき、解剖学的・空間的位置から同定し、慎重に刺入部位・方向・深さを決定します。非常に繊細な手術です。

ページトップへ