Tregの実験をしていた頃に、もう一つ取り組んだ課題がありました。Aireという分子の機能解析です。これに注目したきっかけは本当に偶然で、小児科医の妻が大学院生としてその分子の機能を解析していたからです。Aireは転写因子と考えられていましたが、この遺伝子の変異は「自己免疫性多腺性内分泌不全症・カンジダ症・外胚葉ジストロフィー (Autoimmune polyendocrinopathy candidiasis ectodermal dystrophy (APECED))という、日本語にしても英語にしても長い名前の疾患を来すことが分かっていました。つまりAPCEDという疾患の原因遺伝子がAireだった、という訳です。しかしそのメカニズムはよく分かっていませんでした。

 ちなみに、当時1つの転写因子の変異が原因で自己免疫疾患を来すのは、FoxP3-IPEX, Aire-APECEDの2つの組み合わせしかありませんでした。偶然にもその両方の研究にほぼ同時に取り組んだわけですが、まあ無謀な試みでもありました。私はAireが転写因子であれば、その標的遺伝子を知りたいと考えました。そこでAire遺伝子を培養細胞に強制発現させることで、どのような分子が誘導されるのかを見てみようと思いました。

しかし候補になる分子がそもそも分からないのに、どうやって解析すればよいでしょうか?

今であれば迷わずトランスクリプトーム解析を行って、Aireの強制発現の有無で発現量の変化するmRNAを網羅的に定量するということをすると思います。当時も、GeneChipという手法が実用化されていました。しかしかなり費用のかかる実験で、とても手が出ませんでした。

目をつけたのはRNase protection assayという手法です。

佐藤 浩二郎

私的免疫学ことはじめ (20)  ← Prev    Next → 私的免疫学ことはじめ (22)