4つ前(16)で書いたIPEXという炎症性疾患は、ネガティブ・フィードバックシステムが破綻しているために炎症が終息しない深刻な疾患ということになります。

ネガティブ・フィードバックシステムの逆はポジティブ・フィードバックシステムですが、これは生体が何か変化をするときに重要です。Th細胞がTh1細胞に分化するときなどがこの例になります。APCがIL-12を出してTh細胞をTh1細胞に分化させる→Th1細胞がIFN-γを産生する→IFN-γがAPCを活性化する→スタートに戻る
と、グルグル回るということですね。

どちらの仕組みも大事で、前者だけだと生体は何の変化も起こせない。成長もできませんし、分化もできません。後者だけだと変化にどんどん加速がついて、ブレーキがありませんからもう収拾がつきません。

Tregの実験結果は論文にまとめて、BBRCという速報誌に出しました(Sato K et al., Biochem Biophys Res Commun. 2005)。もはや大学院生ではないので「赤ペン添削」(→(10)論文指導)を受けることもできず(意外と無理にお願いしたら添削していただけたかもしれませんが)、今見直すと本当に稚拙な論文だなと思います。しかも、校正の連絡がメールで来ていたはずなのに何故か見逃していて、校正しないうちに掲載されてしまいました。見たら何とFigの番号を間違えている・・・こんなことをしていたらラボによっては死罪です(どこのラボとは言いません)。ただ、興味深い実際の現象について、思考実験で仮説を立てて、それを検証するというプロセスは本当に楽しく、結果もかなり予想通りだったので、今考えても私にとっては3本の指に入る論文だったと思います。

Tregによる免疫抑制のメカニズムは、その後も色々なものが提唱されています。たとえば、TregがT細胞の周囲の代謝環境を変えるというものもあります。様々なメカニズムが複合的に作用してThの機能を抑制する、というような理解になっているようです。

佐藤 浩二郎

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