因子分析で自分にとっては少し分かりやすい解釈ができるようになったのですが、もちろんこれは万能の方法ではありません。特に気になっているのは、今回のデータは、例えばTh0→Th1day1→Th1day3のように動いていくと思われるのですが、この時間的な関係が解析に反映されていないことです。もしTh1day1とTh1day3のデータ(およびTh2やTh17もそうですが)がそっくりひっくり返っていても、因子分析の結果は変わりません。つまり時間経過という情報を分析に取り入れられていないのです。しかしもちろん時系列というのは生物にとって大事なことです。「赤ちゃんが子供になって大人になる」のは自然なことですが、「赤ちゃんが子供の段階を飛ばして大人になり、その後に子供になる」なんてことはありえません。(子供っぽい大人もいますが、それは別の話です。)

 時系列データをどうやって評価するのかというのは、きっと今は色々な方法論があるのだと思います。私が調べられていないだけでしょう。ただし見つけられたとしてもすぐに利用できるようになるかどうかが問題なのですが・・・。

 いずれにしろTh17細胞の分化に転写因子c-Mafが重要な働きをするという流れで解析を進めていたのですが、2008年のクリスマス頃、医局で文献検索をしていて衝撃的な論文を見つけてしまいました。The costimulatory molecule ICOS regulates the expression of c-Maf and IL-21 in the development of follicular T helper cells and TH-17 cells. Bauquet et al., Nat Immunol 2008 です。この論文でICOSという分子から入るシグナルがTh17細胞と、濾胞ヘルパーT細胞(Tfh細胞)にc-MafとIL-21発現を誘導する、というタイトルです。また先を越された・・・。

 プロジェクトを続けられるかどうか、俄然怪しくなりました。やはり研究は「新しいこと」を何か提唱できるかどうかが大事です。「以前他の人が言ったことと同じデータが出ました」というのでは重要性が格段に落ちます。下手をするとどの雑誌も取ってくれない論文になってしまいます。私にとってはとんでもないクリスマス・プレゼントになりました。

 Tfh細胞というのはTh細胞の一種ですが、リンパ節などの二次リンパ組織でB細胞がメモリーB細胞や形質細胞に分化する際に重要な役割を果たすことが知られています。このB細胞が集まっている部分がリンパ濾胞と呼ばれ、ここにTfhや、濾胞樹状細胞と呼ばれる細胞も存在します。ですからTfhはTh細胞の「存在する場所」で定義づけられており、Th1/2/17細胞とは元々の定義が違います。というわけで、Th1タイプのThf細胞やTh2タイプのTfh細胞なども考えられ、それぞれTfh1, Tfh2, Tfh17などと名付けられています。(ちょっと細かく分けすぎという気もします。)

佐藤 浩二郎

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