前述のNat Immunol.の論文は、Tfh細胞の解析に重きが置かれていました。Th17細胞は「おまけ」のような扱いでしたが、我々の報告したかった骨子が「おまけ」で発表されてしまったのでショックは大きかったのです。当時医局の研究室の扉に各種のTh細胞の表面マーカーや産生する液性因子のポスターが貼ってあり、確かにTfh細胞はTh17細胞と似たところがあるとは思っていました。IL-21を産生するところや表面マーカーにICOSがあるところなどです。だから転写因子の発現にも共通点があって不思議はありません。

 追い詰められた格好でした。打開策としてはc-Mafの具体的なターゲットを見つけるという手がありましたが、ここでもプロモーター解析が役に立ちました。以前解析していたIRFファミリー転写因子の時はISREという配列が重要だったのですが、c-Mafの場合はMARE配列(Maf recognition elementの略。Maf認識配列と言う意味)が重要です。この配列がIL-23受容体をコードする遺伝子の上流にあったのです。あとは型どおりLuciferase assayに持ち込めば良いのです。適当な細胞に、この領域を組み込んだluciferaseベクターとc-Maf発現ベクターを放り込むと、予想通りluciferase活性が上がります。院生の時はあれほど感動したのに、今や当たり前で感動がありません。我ながらスレてしまったものです。それでも、こうした実験に関わる技術の進歩はめざましく、この時はDNAポリメラーゼの進化を実感しました。PCRに使う酵素である耐熱性DNAポリメラーゼは、以前はDNA増幅の過程で変異が入りやすく、また長いDNAの増幅を苦手とするという弱点がありました。変異が入ったベクターを使ったら実験結果が変わってしまうので、後で遺伝子配列を確認して、場合によっては変異部分を切り貼りして取り除くというような面倒なことをしていました。しかし、当時既に、正確性の面でも、長いDNAを増やすという面でも著しく改善しており、数個のクローンの配列を調べるだけで、変異が入っていないクローンを見つけ出すことが可能になっていました。逆に、狙ったところにわざと変異を入れるために、変異を入れたプライマーを作ってluciferaseベクターをテンプレート(鋳型)としたPCRをかけ、PCR産物を環状につなげることで簡単に変異ベクターを作ることもできました。この方法でMARE配列をつぶしたluciferaseベクターを作ったのですが、この方法を紹介していたプロトコールの本が今見つかりません。引っ越しの時にどこかに行ってしまったのか・・・。

 当然ながらMARE配列を削ってやったluciferaseベクターとc-Maf発現ベクターを細胞に入れてもluciferase活性は上がりませんでした。

佐藤 浩二郎

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