成人Still病は関節炎を起こす疾患なので、関節リウマチに使う薬を使ってみるのはまあ自然なことです。最初は経口薬であるメトトレキサートなどがよく使われましたが、その後サイトカイン阻害薬としての生物学的製剤が実用化されたためにそれらも使われるようになりました。

 とても印象的な成人Still病の男性患者さんがいました。20歳代とまだ若く、炎症マーカーである血清CRPが、ステロイドを大量に使って、パルス療法(1000 mg/day)までやっているのに基準値まで下がりません。特徴的な臨床指標である血清のフェリチンも高値が持続しています。このままではステロイドを減らすことができないのでTNF阻害薬であるインフリキシマブを投与したもののほとんど効果がなく、次にエタネルセプトを使いましたが病勢はビクともしません。ステロイド(プレドニゾロン)を60 mgから40 mgまで減らした段階で、経口免疫抑制薬のシクロスポリンを追加していったん退院としましたが、やはり炎症が残っているので痛みもあるわけです。外来受診時に患者さんに泣かれてしまいました。「(身体が痛くて)娘を抱っこできないんですよ!」聞いているこちらが辛くなります。私も娘がいるのでなおさらだったかもしれません。ちょうどその頃TNF阻害薬に加えてIL-6阻害薬(トシリズマブ)が使えるようになっていたので、効くかどうかは分からないよと患者さんによく説明して、再入院の上トシリズマブを点滴投与しました。

 効果は劇的でした。症状があっという間にほとんど消失してしまったのです。そして検査値も。CRPが減るのはまあ分かります。CRPは肝臓で主に合成されると考えられていますが、その時にIL-6の刺激が重要なことが分かっています。しかし、それだけでなくフェリチンやMMP-3といった項目の異常値も速やかに改善しました。シクロスポリンもメトトレキサートもやめてしまい、ステロイドも(急にやめると副腎不全という危険な状態になるために)ゆっくり減らして、中止することができました。残ったのは月1回のトシリズマブの点滴のみです。それを除けばほとんど健常人と変わりません。同じ頃、入院していた成人Still病の女性患者さん、この人は毎日高い熱が出るので苦しんでいたのですが、その人にもトシリズマブを投与したところその日から発熱が見られなくなりました。こんな薬は見たことがない・・・。

 ところが、不思議なことがありました。男性の血清中のIL-18は、2年後になっても5000 pg/mLもあったのです。最初6850 pg/mLだったので、あまり減っていません。そして、トシリズマブの投与間隔をどれくらい空けられるか試してみたところ、5週間だと大丈夫のようでしたが、6週間にすると血清CRPが陽性となり、熱が出てくることが分かりました。つまり、何の症状もないようにみえても、この患者さんの疾患は治ったわけではないのです。IL-6を抑制していないとぶり返してしまうようです。

佐藤 浩二郎

 

私的免疫学ことはじめ (50)← Prev     Next →私的免疫学ことはじめ (52)