TNFの(破骨細胞分化における)役割、それはRANKLの発現を促したり、RANKLの働きを助けたりすることではなく、もっと積極的にRANKL非依存的に破骨細胞分化に関わっているのではないか、という考えに至りました。前回言及したTEMPOスタディの、TNF阻害による骨破壊抑制効果は衝撃的なものでしたし、それに比べるとRANKL阻害による関節リウマチに対する治療効果はかなり控えめなものに思えました(抗RANKL抗体は世界中で骨粗鬆症の治療薬として活躍していますが、日本では関節リウマチの補助的な治療薬としても適応があります)。もちろん「RANKL無くして骨破壊無し」という強力なパラダイムがありますので、こういう仮説は通常、妄想として切り捨てるべきなのかもしれません。しかし捨てるにしてはTNFとRANKLとは似すぎているように思えました。 

 TNFにあと何らかの要素を足してやれば、RANKLと同じような破骨細胞分化機能が再構成できるのではないか・・・。実は1つ、とっておきのアイデアがありました。RANKLの受容体はRANKです(というより、RANKのリガンドがRANK ligand = RANKL)。RANKはreceptor activator of NFκBの略で、転写因子NFκBを活性化する受容体というほどの意味です。NFκBは炎症に関わる色々な分子の発現を制御する重要な転写因子なのですが、実際はいくつか種類があり、古典的経路と非古典的経路とでは最終的に活性化される転写因子(= NFκB)の種類が違います。前者では主にRelAとp50のヘテロダイマー、後者ではRelBとp52のヘテロダイマーがNFκBとして転写に働きます。「RANKL刺激では非古典的経路が優勢である」という話がありました。そこで私が考えたのは、TNF刺激で(RANKLに比べて)非古典的経路の活性が足りないのであれば、何らかの方法を足して非古典的経路の刺激を補ってやればRANKLと同様の働きになるのではないか、という仮説です。単球系細胞のCD40という受容体に刺激を入れればNFκBの非古典的経路が活性化するということなので、

RANKL ≑ TNF + CD40刺激

になるのではないかという考えです。素人なので怖いものは何もありません。早速濃度を変えて破骨細胞前駆細胞をTNFと抗CD40抗体とで刺激する実験をやってみました。結果は・・・TRAP染色陽性の多核細胞は見事にできませんでした。ここから数年、このプロジェクトは休眠することになります。

佐藤 浩二郎

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