関節リウマチ(rheumatoid arthritis, RA)の骨破壊について、大きな衝撃を受けた報告があります。TEMPOスタディという治験結果の報告で、これはRA患者にTNF阻害薬であるエタネルセプトを投与すると、メトトレキサート(MTX)投与に比べて骨破壊の進行が抑制されるという内容でした(Arthritis and Rheumatol. 2006)。更に興味深いことに、エタネルセプトとMTXを併用すると、骨破壊はほとんど進行しないという結果です。まあ併用した場合でも一部の患者については骨破壊は進行しているのでしょうが、「平均すると進行していない」ということで、それはとりもなおさず「一部の患者については逆に骨破壊が改善している」かもしれないということです。この結果1つをとっても、TNFがRAの骨破壊に大きな役割を果たしているということは明らかです。TNFはRANKLと同じファミリーに属するサイトカインであり、同じように3量体として機能します。結晶構造解析の結果を見ても瓜二つです。だからTNFがRANKLと同じように破骨細胞の分化を促進しても不思議はありません。しかし実際には、RANKLの代わりにTNFを使っても試験管内で破骨細胞を分化させることは困難です。そこでTNFはRANKLの発現を誘導することで、「間接的に」破骨細胞を誘導すると考えられてきたのです。これに関して2000年にTeitelbaumのグループから出た論文は大変面白い内容でした(Lam et al., J Clin Invest. 2000)。これは、「TNFがあるとごく少量のRANKLでも破骨細胞分化を誘導することができる」というものでした。なるほどー、いかにもありそうなことだ、と思ったのを覚えています。しかし!自分で試してみると、あまりそうはならないのです。TNFを加えてやるとRANKLによる破骨細胞分化が却って阻害されているような結果です。不思議に思って色々試してみると、RANKLを加えて「1日後に」TNFを追加してやると破骨細胞分化が亢進するという結果が得られました。破骨細胞の前駆細胞が最初にTNFに出会ってしまうと破骨細胞になりにくくなる印象です。これは後にOchi et al., Proc Natl Acad Sci USA. 2007につながったのですが、それではRA患者の関節では、(1)まず最初に前駆細胞がRANKLの刺激を受け (2)次にTNFの刺激も加わる というようなことが持続的に起きているのでしょうか?

 そうかもしれません。しかしこれは明らかにちょっと複雑な過程になります。TNFの(破骨細胞分化における)役割は他にあるのではないか?という気がしてきました。

佐藤 浩二郎

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