私がクローニングしたのはマウスTRAIL遺伝子のプロモーターですが、今同じような
ことをする人はいません。ヒトやマウスの遺伝子配列は全てオンラインで検索できるので、わざわざ手を動かしてクローニングする必要はないのです。私はもしかするとマウスのDNAクローニングを手作業で行った世界最後の人間かもしれません(そんなわけはないか・・・)。
しかし、あの実験は先人の知恵が詰まった、極めてエレガントなものだったので、それを経験できたことは本当に良かったと思っています。

ちょっと前までは普通に行われた実験で、今はほとんどみかけなくなったものはたくさんあります。その多くは放射性同位元素(radio isotope, RI)を使った実験です。RIは管理が大変なのです。DNAクローニングもそうでしたし、免疫学ではよく使われてきた
サイミジンアップテイク、クロムリリースアッセイなどの実験もそうです。上手く使うととても感度の高い、切れ味の良い結果が得られます。細胞傷害活性を見るのにクロムリリースの代わりにRIを使わないLDHリリースアッセイなどもありますが、LDHは生きている細胞からも出るためバックグラウンドの値が高く、データがぼやけたものになる印象を持っています。

メッセンジャーRNA(mRNA)レベルの遺伝子発現を見るNorthern blottingという手法も最近は論文でほとんど見なくなりました。定量RT-PCRという方法に置き換わっています。どこかの学会で、欧米の研究者が「昔はNorthernという方法で遺伝子発現を見ていてね・・・」というようなことを言っていて、本人は冗談のつもりで言っていたのだと思いますが、若い研究者は冗談と思わず真面目に受け止めているような印象がありました。ある程度以上の年齢の研究者にしか通じない冗談だったかもしれません。

TT研にはNorthern blotting「世界最速」を謳われる人もいましたが・・・。(コンテストが行われている訳ではありません。念のため。)生物学研究の手法も、ものすごい速さで変化しているものだとつくづく思います。

佐藤 浩二郎

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