それにしても、TNFとIL-6の組み合わせというのは・・・。2000年頃より関節リウマチに対して生物学的製剤としてTNFブロッカーが導入され、その高い効果と即効性により急速に広まりました。ほどなくしてIL-6阻害薬も使えるようになり、これらは今でも関節リウマチ治療において中心的な役割を果たしています。関節リウマチでは骨の破壊が大きな問題であり、これを担っているのが破骨細胞と考えられています。これら2つのサイトカインを組み合わせたら破骨細胞(様)細胞ができるというのは、後から振り返るとあまりにも安易な組み合わせであり、まず最初に試すべき培養条件だったように思います。

しかしそんな振り返りばかりしている時間はありません。この「安易な組み合わせ」は誰でも思いつくものなので、当然世界のどこかで同じ現象を観察している人たちがいるでしょう。できればその人たちよりも早く発表したいというのが人情です。とは言っても証拠固めも必要です。2つの実験を並行で進めることにしました。1つは生体のマウスを使った実験で、マウス頭部にサイトカインを直接投与して頭蓋骨を組織学的に検討するというものです。ただ原始的な実験であり、マウスの個体差も大きいので正直、定量的な比較には向きません。定性的な比較くらいしかできない実験系です。もう一つは、Stat3の条件付きノックアウトマウス(コンディショナルノックアウトマウス、cKOマウス)を使ったin vitroの実験です。IL-6の下流で働く重要転写因子のStat3をノックアウトすれば今回の多核細胞はできなくなると予想しました。しかしStat3のノックアウトマウスは生まれてこないことが知られており、大阪大学でこのcKOマウスが開発されていました。詳細は省きますが、このマウスとLysMcreマウスというマウスと交配することで単球/マクロファージ系の細胞でのみStat3がノックアウトされる、というシステムです(このように、狙った細胞系譜だけで遺伝子を破壊することができる、というのが「条件付き」ノックアウトの意義です)。大阪大学の竹田潔先生にマウスの御供与をお願いしたところ、快く送って下さいました。実費(輸送費)くらいは当然こちらで持つべきところだったのですが、堅くお断りされました。ビッグラボの矜恃というものでしょうか。そのマウスを使ってTNF + IL-6のふりかけ実験を行ったところ・・・

「あれ?多核細胞、できているぞ?」

どうやらまた間違えたようです。(正確に数えたことこそありませんが、私がやってきた実験のおそらく過半数は、予想と違う結果になっている気がします。)一体これはどうしたことか。またまた壁に行き当たりました。

佐藤 浩二郎

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