さて、臨床の話題に戻ります。皮膚筋炎の話です。皮膚筋炎は多発性筋炎とセットで講義でも扱われることが多い疾患ですが、私が学生や研修医だった頃とは疾患概念が大きく変わっています。以前は「皮膚症状のある多発性筋炎を皮膚筋炎と呼ぶ」といった扱いでした。それに加えて、少し毛色の異なる「封入体筋炎」という疾患があり、この疾患も治療抵抗性でなかなかやっかいです。 

しかし2003年に、新たな疾患概念が提唱されました。それが免疫介在性壊死性ミオパチー(immune-mediated necrotizing myopathy, IMNM)と呼ばれる疾患です。筋炎だと普通myositisなのですがこれはmyopathy(直訳すると筋症)です。この呼び方の違いはあまり炎症が目立たない(病理学的に、免疫担当細胞の浸潤が目立たない)ことを意味するのだと思いますが、そうは言っても治療はステロイドと免疫抑制薬なので、自己免疫疾患の範疇には入ります。自己抗体も抗HMGCR抗体やら抗SRP抗体など見つかるようになっています。自己抗体陰性例もありますが「まだ見つかっていないだけ」の可能性もあります。 

病理の先生の目からはこれまで多発性筋炎と呼ばれていたものの多くはIMNMに分類されるようなのです。つまり多発性筋炎は病理学的には絶滅危惧種だと言えます。 

そしてもう一つ、私たちを悩ませていた疾患があります。それが無筋症性皮膚筋炎と呼ばれる一群の疾患です。以前の考えから言うと皮膚炎+筋炎が皮膚筋炎だったわけで、そこから筋症を引けばただの「皮膚炎」になりそうなものです。重要な炎症の部位が一つ欠けているのだから軽症になりそうなものですが、話は逆で、不思議なことに間質性肺炎合併例が多く、重症になりやすいことが分かってきました。皮膚筋炎は間質性肺炎を合併しやすい疾患ですが、通常多めのステロイドを使うと間質性肺炎の進行は止まり、ゆっくりステロイドを減らしつつ、代わりに免疫抑制薬を加えていくことで患者さんはほぼ健常人と同じ生活を送ることができる場合も決して珍しくはありません。しかしこの無筋症性皮膚筋炎の場合はステロイドを大量に加えても間質性肺炎が進行することが多いというやっかいな性質があります。ステロイドを減らせない状況で免疫抑制薬を追加せざるをえなくなり、抵抗力が落ちるために通常なら問題にならないようなウイルスなどまで感染症を起こす(=日和見感染)ということで治療に難渋します。このタイプの皮膚筋炎は日本をはじめとするアジア系の人種に多いようで、論文報告もアジアが多い印象です。そして、日本から重要な発見が相次ぎました。それがこの疾患の治療のスタイルを大きく変えていくことになります。 

佐藤 浩二郎

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