まずはこの疾患に特異的な自己抗体の発見です。慶応大学のグループから、140 kdの大きさの抗原と反応する自己抗体が患者の血清中に存在する、ということが報告されました(Sato S et al., Arthritis Rheum. 2005)。これは抗CADM-140抗体と名付けられましたがCADMはclinically amyopathic DM (臨床的に筋炎症状の乏しいDM, つまり無筋症性皮膚筋炎のこと)の略です。更に続報として、その抗原の正体がMDA5というタンパクであることが早くも2009年に報告されました。はじめはこの自己抗体を検出できるのは少数の研究室に限られていましたが、それでは自己抗体が陽性だと分かったときには病勢が進行している、ということが避けられません。今では検査会社がこの抗体を測定し、保険でも認可されているために数日で結果が分かります。ステロイドに加えて2種類の免疫抑制薬を投与する、という方法が一般的になっています。通常こんな強力な治療を行うのは副作用を考えると気が引けるのですが、抗MDA5抗体が陽性であることが分かれば私達もためらうことはありません。その方が治療成績が良いことを知っているからです。この抗体検査が実用化されたのは本当に素晴らしいことでした。しかし、未だに決して油断できる疾患ではありません。どうしてこの抗体が陽性になると重症の皮膚筋炎になってしまうのか?それが分かればより効果的な治療ができるかもしれません。以前成人Still病の解析に使ったビーズアレイという方法で、血清中の複数種類のサイトカイン・ケモカインを定量したところ、この抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎患者由来の血清と成人Still病患者由来の血清とでは大きく結果が異なることが分かりました。どちらも炎症性疾患であることには変わりありませんが、その内容は全く別物です。前者ではIFN-αとIP-10の値が著増していました。 その結果を見た時に、私は20年以上もタイムスリップした気になりました。

と言ってもSF的な格好いいものではなく、フラッシュバック(とかトラウマ?)と言った方が近いかもしれません。大学院生だったときに私は免疫学教室の中の「免疫グループ」に属していました。免疫学教室なのに免疫グループが一番小さかったのですが、それはともかく製薬会社から国内留学していたH田さんという方が解析していたIRF-2ノックアウト(KO)マウスの表現系は大変興味深いものでした。飼育しているうちにそのマウスは皮膚炎を自然発症するのです。膨大なマウスの交配実験の末にH田さんはその皮膚炎がCD8陽性細胞依存性であること、またtype I IFN系のシグナルを遮断すると皮膚炎が起きなくなることを見出しました。更に炎症を起こしている皮膚でケモカインIP-10が著明に高発現していることも発見したのです。これらの結果を解釈するために激しい長時間のディスカッションが繰り返されました(そのために20年以上たってもトラウマとして記憶に刻み込まれているのですが)。結論を簡単に書くとIRF-2がtype I IFNのシグナルを普段は負に制御しており、それが欠損しているマウスでは過剰にtype I IFNシグナルが入る。それがIP-10の過剰産生につながり、単核球(主としてCD8陽性T細胞=キラーT細胞)の皮膚浸潤、皮膚炎を引き起こす、というものでした。IP-10は元々type II IFNすなわちIFN-γの標的分子として発見された経緯があるのですが、あのエンドレスなディスカッションを経験した私にとっては、IP-10は断然type I IFNの標的分子なのです。

佐藤 浩二郎

私的免疫学ことはじめ (67)← Prev     Next →私的免疫学ことはじめ (69)