もう1つ重要な点として、MDA5自体がI型IFN刺激によって誘導される分子であることが挙げられます。I型IFNによってMDA5が細胞内で増え、そのMDA5にRNAが結合するとI型IFNの産生が促進される、というのは典型的なポジティブフィードバック機構のように見えます。そこに抗MDA5抗体(が形成する免疫複合体)が関与すると、制御できない状態(=疾病)に陥るのかもしれません。そう考えると自己抗体を除去するような血漿交換が治療に有効であることも理論的に説明がつきます。あるいは自己抗体を減らす手立てとして、大量免疫グロブリン療法も有効かもしれません。ただし効果は一時的に留まる可能性があります。

他の手段として興味深いのは2018年に獨協医大から報告された、JAK阻害薬が抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎に有効であったというRheumatology誌に載った論文です。翌年には中国のグループから同様の報告がNEJM誌に出ています。JAK阻害薬はI型IFNのシグナルも阻害する薬剤ですから、効果を示した理由はそこにあるのかもしれません。実際、外来患者で使って見たところ、抗MDA5抗体陽性の皮膚症状(潰瘍)にはかなり即効性を持って効果があった印象でした。しかし肺炎で入院しているようなケースでは、他の免疫抑制薬を第一選択薬として既に使っていることが多いため、その作用で白血球数が少なくなっており、JAK阻害薬を追加することがためらわれるケースが多々あります。他の抑制薬の「代わりに」JAK阻害薬を入れられれば良いのかもしれませんが、そこはまだ経験不足です。

 また、本当にI型IFNがそれほど悪さをしているのであれば今は抗I型IFN受容体抗体があるわけなので、それが有効かもしれません。そう思っている医師も多いと思いますが、全身性エリテマトーデスに対する薬剤であり、明らかな適応外使用になりますので、おいそれと手を出せる方法ではありません。

しかし手持ちの武器は増えてきたので、より確実に・安全に・短期間内で治療するやり方が今後確立してくるのではないかと期待しています。

佐藤 浩二郎

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