前にも書いたように、破骨細胞の分化の過程で転写因子Nfatc1が著増するため(Dev Cell 2002, Vol. 3, p889-)、Nfatc1は破骨細胞分化の「マスターレギュレーター」と考えられるようになりました。Th1, Th2細胞についても、前者ならT-bet, 後者ではGATA-3, c-Mafのような転写因子が重要と考えられています。ただし、1つの転写因子が細胞の分化を全て規定するわけではないので、最近は「マスターレギュレーター」という言葉はあまり使われなくなっているようです。

Th17細胞においてもRORγtという転写因子が重要であることがすでに知られていました(Cell 2006, Vol. 126, p1121-)。しかし他にもあるだろう、という安易な考えで実験を始めました。単に「トランスクリプトーム解析」がしたかっただけかもしれません。

Th1, Th2, Th17細胞のそれぞれの分化条件でマウスのナイーブTh細胞を培養し、回収した細胞からRNAを回収します。しかしここで問題発生です。

この時トランスクリプトーム解析に用いたのはAffymetrix社のGeneChipという製品でしたが、Dev Cell 2002の頃よりは受託解析の費用も大分こなれてきていたため、外注に出す方針でした。ところが、その会社が親切なことにRNAの純度を測定してくれて、「純度が足りないので解析しない方がよいのではないか」とアドバイスをくれたのです。確かに、大金を払って得られたデータが信用できなければどうしようもありません。

当時私が使っていた試薬は「セパゾール」という試薬と「RNeasy」というキットの2種類です。後者はカラムを使った方法で、かなり実験時間を短縮することができます。

ところがどちらの製品を使っても、純度がパスしません。本来ならば、大学院生の時にやっていた「超遠心」という技術を使ってRNAを回収すると純度が上げられるように思いますが、医局には超遠心機はありませんし、しばらくやっていなかったので自信がありませんでした。(バランスをちゃんと取らないとローターが遠心機を突き破って吹っ飛ぶ、という都市伝説?があります。安易に使える機器ではありません。)

ここで、1つ上手くいくかもしれない方法を考えました。「セパゾール」を使っても「RNeasy」を使ってもダメなら、両方を使ってみればよいのではないか?つまりセパゾールで粗精製したサンプルを、カラムワークで精製すればよいのではないかというアイデアです。これは狙い通り上手くいきました。ようやく受託先の会社のOKが出たのです。

佐藤 浩二郎

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