生物製剤など高額な治療薬を処方することにほとんど抵抗を感じなくなっていた私ですが、2年前くらいだったかのある研究会で血液内科の先生のセミナーを聴く機会がありました。私にとっては異分野だったので、細かいことは分からないまでも興味深く拝聴していたのですが、その中で「この薬はよく効くことが示されているが、日本には導入されていないので使えない」という話が出てきて愕然としました。どういうことか。

日本では医療費を増やしたくないため、薬剤費をむしろ減らす方向に圧力がかかっています。そうすると海外の製薬会社は、日本に商品(ここでは薬剤)を売ろうとしても値段が折り合わず交渉が成立しないということになるようです。製薬会社も営利企業ですので、もっと高額で買ってくれる国に薬剤を販売する、ということになります。恥ずかしながら私はそれまでドラッグ・ロスという言葉を知りませんでした。知っていたのはドラッグ・ラグという言葉で、欧米などで使われている薬が日本で使えるようになるまでに時間がかかる、という現象のことを指します。このドラッグ・ラグは昔に比べるとずいぶん改善しており、最近は欧米とほぼ同時に使えるようになる薬も多いのです。しかし「そもそも日本に入ってこない」(ドラッグ・ロス)となると話は別です。これは臨床医にとっては非常にストレスフルな状況です。効く薬があると分かっていて使えないのですから。アメリカでトランプ氏が2度目の大統領職に就き、事態は悪化する可能性があります。というのもトランプ氏はアメリカでの薬剤費を、「他の国の中で最も低い価格に合わせる」ように製薬会社に圧力をかけているからです。価格が抑えられている日本に売るのは最初からやめよう、ということになりかねません。

佐藤 浩二郎

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