免疫を学んでいると、不思議に思うことが色々出てくるのですが、私が大学院生の時に一番不思議だったことは、サイトカインIL-2のノックアウト(KO)マウスがT細胞の増殖を伴う強い炎症を起こして死んでしまう、という実験事実です。というのは、IL-2はT細胞の増殖に重要なサイトカインと考えられていました。IL-2KOマウスはT細胞が増殖せず、免疫不全マウスになるのではないかと思っていたのに、正反対の表現型を示すというのです。何故こんなことが起きるのか。IL-2の受容体は3つの分子が報告されており、IL-2受容体α鎖、β鎖、γ鎖と名付けられています。それぞれCD25, CD122, CD132という別名もついています。β鎖とγ鎖のヘテロ2量体でもIL-2が結合すると、細胞に刺激が入ります。そこにα鎖も加わって、ヘテロ3量体になると、IL-2に対する結合力が増します。つまりβ鎖+γ鎖で低親和性のIL-2受容体、α鎖+β鎖+γ鎖で高親和性IL-2受容体になります。T細胞はIL-2刺激が入ると増殖するのですが、活性化T細胞はα鎖を発現して、高親和性IL-2受容体を持つようになるので、更に増殖しやすい、ということが想定されていました。
γ鎖のKOマウスは実際に、免疫不全マウスとなります。(実はヒトでもγ鎖に変異がある子供は重症の免疫不全症を来します。これは骨髄移植ができれば完治が望める疾患です。)
ところが、α鎖のKOマウスとβ鎖のKOマウスはどちらもT細胞が異常活性化して自発的に炎症を起こしてしまいます。IL-2KOマウスにそっくりです。
どうすればこのような変な現象は説明できるでしょうか。
(γ鎖のKOマウスでは、T細胞が増殖しないというより、T細胞がそもそも存在しません。これも面白い現象ですが、それは私が大学院生であった当時でも説明可能なことでした。というのは、γ鎖はIL-2受容体の構成要素ではあるのですが、役割はそれだけではありません。IL-4, IL-7, IL-9, IL-15, IL-21の受容体の構成要素でもあるのです (IL-21については当時分かっていなかったと思いますが)。そのためIL-2γ鎖は「共通γ鎖 (common γ chain, γc)」と呼ばれています。たとえばIL-7KOマウスはリンパ球数が減少することが報告されていましたので、γcが無いとリンパ球数が減ることの少なくとも一部は、IL-7のシグナルが入らないことでも説明できそうです。)
佐藤 浩二郎
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