2005年にNature Immunology誌に連報で新しいThサブセットとして、IL-17を産生するTh細胞が報告されました。その細胞はTh17細胞と名付けられ、分化の方法は私たちが用いた方法とほとんど同じでした。先を越されてしまいました。
 これらの論文自体には驚きは無く、やはり似たようなことを考える人はいるんだなあという感慨のようなものを感じたことを覚えています。それと、分化のさせ方が本当にそっくりであることには驚きました。
 しかし、次の年にNature誌に、やはり連報で出た、「Th17細胞の分化には、IL-23ではなく、サイトカインTGF-βとIL-6の組み合わせが必要である」という論文には心底驚きました。TGF-βはどちらかというと、IL-10と同様に炎症を防ぐ「抗炎症性」サイトカインの代表と考えられてきたからです。IL-6は逆に炎症性サイトカインの代表ですから、Th17細胞のような、炎症性のTh細胞サブセットに関連していてもそれほど意外には感じませんでした。しかしTGF-βとは・・・。完全に予想外でした。
 TGF-βは制御性T細胞(Treg)を試験管内で分化させるときに添加します。坂口先生が見つけられたTregは胸腺においてすでにTregに運命づけられていた細胞ですが、そうでないTh細胞も、試験管内でTGF-βを加えて分化させるとTreg細胞として機能するようになり、inducible Treg (iTreg)などと呼ばれていました。つまりIL-6の有り無しで炎症性のTh17細胞になったり、炎症を鎮静させるTreg細胞になったりする、ということです。

 じゃあIL-23の立場はどうなんだ、という点については、Th17細胞の分化というより、Th17細胞の増殖や活性化に重要なサイトカインという位置づけになっていきました。
 というのは、胸腺から出たばかりで抗原に出会っていないような「ナイーブTh細胞」はIL-23の受容体を持っていないようなのです。分化因子だと思っていた私は間違っていたことになります(そしてそれは2005年のNature Immunology誌に出した人たちも同様です)。
私個人としては、IL-12とIL-23をあくまで並列の関係(IL-12→Th1, IL-23→Th17)と捉えていたことが原因だったと思います。

佐藤 浩二郎

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