マウスからTh細胞を取ってくるときに、私はCD4陽性細胞を集めていました。抗CD4抗体のくっついた磁気ビーズを細胞と反応させ、磁石を使ってCD4陽性細胞を集める、といった手法です。それらのヘルパーT細胞は、使ったマウスがSPF環境であれば大半がナイーブ細胞と呼ばれる細胞です。
SPFとはspecific pathogen freeの略で、特定の病原体がいない環境、という意味です。しかしこれは、無菌環境ということではありません。したがって、一部のヘルパーT細胞は抗原と出会って、ナイーブからメモリーTh細胞になっています。
ナイーブのTh細胞を集めるような磁気ビーズの組み合わせも当時既に可能でした。しかし私はその一手間をかけませんでした。「8割かたはナイーヴTh細胞が取れてくるのだから、大勢に影響は無いだろう」と考えていました。しかし、ナイーブTh細胞がIL-23に応答できないのであれば話は変わります。私が(および、おそらく2015年のJEM論文の著者たちも)やったことは、「(少数派である)メモリーTh細胞にIL-23を添加することで、そのポピュレーションに含まれていたTh17細胞を増殖させた」ことだった可能性があります。
あの時にもしも手を抜かずに、ナイーブTh細胞を集めて実験をしていたら、IL-6やTGF-βの不足からTh17細胞は分化することができず、目的の「破骨細胞分化促進」は見られなかった可能性が高いのです。手を抜いたから実験が(結果的に)成功した、ということになります。勝負には負けたが試合には勝った、というところでしょうか(違うか・・・)。
Th17細胞の存在を免疫学の世界で提唱するプレッシャーからは解放されましたが、しかしこの論文を提出したときに、査読者(レフェリー)から「IL-23ではなくてIL-6とTGF-βを使ったらどうなるのか」という質問される可能性が出てきました。そうなると実験のやり直しにまたかなり時間がかかってしまいます。
しかし、幸い、そのようなコメントはありませんでした。J Exp Med誌があっさりアクセプトしてくれました。しかしThOcという名称はTh17に変えなさい、というお達しでした。これは自分たちが早く出せなかった以上、従うしかありません。かくしてThOcという名前は日の目を見ずに終わりました。
佐藤 浩二郎
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