研究内容

耳科学分野

担当:野田 昌生(指導:伊藤 真人)

耳科学分野を中心に以下の研究を行っています。

  1. AAVベクターを用いた内耳遺伝子導入
  2. 片側難聴モデルにおける内耳炎症とその抑制についての検討
  3. 深層学習を用いた片側難聴モデルにおける行動解析
  4. 顔面神経切断モデルマウスにおける、V1bの神経保護についての検討
  5. めまい遠隔医療における、症状モニタリング・眼振記録の検討
  6. 耳鼻咽喉科領域を中心とした医療分野への生成AIの活用

1)AAVベクターを用いた内耳遺伝子導入

自治医科大学では、AAV(アデノ随伴ウイルス)による遺伝子導入が神経系を中心に幅広く活用されてきました。野田助教を中心に遺伝子治療学の村松慎一教授と連携をとり、内耳遺伝子導入についての研究を進めています。

様々な条件で内耳への導入効率を向上する取り組みや、臨床化にむけた安全な導入方法について取り組んでいます。

主な論文

  • Shimada MD, Noda M, Koshu R, et al. Macrophage depletion attenuates degeneration of spiral ganglion neurons in kanamycin-induced unilateral hearing loss model. Sci Rep. 2023;13(1):16741. Published 2023 Oct 5. doi:10.1038/s41598-023-43927-9

内耳遺伝子導入

耳の解剖と感音難聴

  • 感音難聴の原因として内耳が多く、様々な細胞が存在する。
  • 中でも内有毛細胞は音刺激を中枢へと伝える働きをしている。
  • M Morgan et al. De Gruyter2020

感音難聴の原因となる内耳への遺伝子導入をAAVベクターを用いて試している

2)片側難聴モデルにおける内耳炎症とその抑制についての検討

島田助教、野田助教、甲州臨床助教を中心に、薬剤による片側内耳難聴モデルマウスを作成し、内耳と聴覚中枢における炎症について研究を行なっています。
これまで、難聴を形成する薬剤や騒音などの障害モデルでは内耳や聴覚中枢に炎症が関連しているとされています。難聴形成後に起こる内耳炎症の役割について議論が行われてきました。

当科ではさらに、炎症を抑制することにより、難聴や内耳の機能、形態についてどのような影響があるのかをマウスを用いて検討しています。

主な論文

  • Shimada MD, Noda M, Koshu R, et al. Macrophage depletion attenuates degeneration of spiral ganglion neurons in kanamycin-induced unilateral hearing loss model. Sci Rep. 2023;13(1):16741. Published 2023 Oct 5. doi:10.1038/s41598-023-43927-9

難聴モデルと内耳炎症

  • (a)

    らせん神経節細胞の
    ストレスマーカーATF3の減少

    • (b)
    • (c)

クロドロン酸によるマクロファージの抑制により、内耳毒性を緩和

3)深層学習を用いた片側難聴モデルにおける行動解析

野田助教を中心に、分子薬理学部門の輿水崇鏡教授と共同で、片側難聴における行動異常について深層学習を用いた解析を行なっています。
片側難聴は、生活上大きな問題はないですが、音源定位(音が鳴っている場所がわからない)やスケルチ(雑音の中で聞き分ける)など一部支障があると言われています。ぱっと見ただけでではわからないような異常について、深層学習を用いた解析を行っております。明らかな異常があれば、臨床に応用し、早期に難聴の発見につながるようなモデルを作成して参ります。

主な論文

  • M Noda, SD Mari, C Sajjaviriya, R Koshu, C Saito, M Ito, T Koshimizu
    Convolutional neural network model detected lasting behavioral changes in mouse with kanamycin-induced unilateral inner ear dysfunction.
    bioRxiv, 2023.11. 04.565603

片側難聴とAI行動解析

難聴モデルを作成し、Open Field内での自由行動を追跡
その変化を深層学習モデルで捉え、行動の違いを解析

4)顔面神経切断モデルマウスにおける、V1bの神経保護についての検討

野田助教、甲州臨床助教を中心に、分子薬理学部門の輿水崇鏡教授と共同で研究を行っています。

顔面神経を障害した際に神経や神経核でどのような病態が起きているかを検討しています。神経を保護や変性を促進する遺伝子の検討が、神経障害後の戦略に重要となります。自治医科大学では、神経系の様々な基礎研究が行われており、薬理学教室におけるバソプレッシン受容体の一つV1bに注目しました。V1bはV1aやV2など他のバソプレッシン受容体と比較し、まだ未解明な部分も多く、神経の恒常性維持に重要な働きをしていることがわかっています。神経障害の神経変性や脱髄について解析し、それを保護できるような介入ができないか検討をおこなっています。また、顔面神経を切断後、神経を吻合やPGAチューブによって繋いだ場合にどのような変化がおきているかについても検討しています。

5)めまい遠隔医療における、症状モニタリング・眼振記録の検討

野田助教を中心に、目白大学(埼玉県)との共同研究を行っています。
めまい診療におけるデバイスの開発や遠隔診療の取り組みを行っており、

  • 症状モニタリングデバイス
  • 眼振記録機器の開発
  • 遠隔リハビリテーション

について、継続して学会や論文発表をおこなっています。

主な論文

  • Noda M, Kuroda T, Nomura A, Ito M, Yoshizaki T, Fushiki H. Smartphone-Assisted Medical Care for Vestibular Dysfunction as a Telehealth Strategy for Digital Therapy Beyond COVID-19: Scoping Review. JMIR Mhealth Uhealth. 2023;11:e48638. Published 2023 Sep 11. doi:10.2196/48638

6)耳鼻咽喉科領域を中心とした医療分野への生成AIの活用

野田助教を中心に、2022年頃から爆発的に普及している生成AIについて、耳鼻咽喉科領域を中心に医療分野でどのように活用できるか取り組んでいます。

これまで金沢大学 野村章洋准教授との共同研究により大規模言語モデルを用いた医師国家試験の有用性について検討してきました。(PLOS digit health 2024)
さらに、耳鼻咽喉科専門医試験への有効性(野田ら 日耳鼻2023, Noda et al JMIR med edu 2024)についても検討しています。
また、鼓膜や喉頭画像への応用についても検討しており、信州大学との共同研究として進めています。

主な論文

  • Tanaka Y, Nakata T, Aiga K, et al. Performance of Generative Pretrained Transformer on the National Medical Licensing Examination in Japan. PLOS Digit Health. 2024;3(1):e0000433. Published 2024 Jan 23. doi:10.1371/journal.pdig.0000433
  • 耳鼻咽喉科専門医試験におけるGenerative Pretrained Transformerの有効性に関する検討
    野田 昌生, 上野 貴雄, 甲州 亮太, 島田 Dias茉莉, 伊藤 真人, 矢本 成恒, 吉崎 智一, 野村 章洋
    日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 126(11) 1217-1223 2023年11月
  • Masao Noda, Takayoshi Ueno, Ryota Koshu, Yuji Takaso, Mari Dias Shimada, Chizu Saito, Hisashi Sugimoto, Hiroaki Fushiki, Makoto Ito, Akihiro Nomura, Tomokazu Yoshizaki.
    Performance of GPT-4V in Answering the Japanese Otolaryngology Board Certification Examination Questions: Evaluation Study
    JMIR Med Educ 2024, in press.

頭頸部癌研究

ソマトスタチン受容体2型(SSTR2)は多くの頭頸部癌では発現が抑制されています.頭頸部癌細胞に,SSTR2を遺伝子導入するとソマトスタチン刺激によりアポトーシスを誘導することが可能です.現在は,SSTR2の情報伝達経路を解明するとともにセツキシマブの耐性化との関連も調べています.また,ソマトスタチンには様々なアゴニストが知られており,このような薬物の頭頸部癌に対する作用を調べると同時に受容体の発現が予後因子として重要であることも確認しています.