造血幹細胞移植の流れ  移植日の1週間ぐらい前から、腫瘍細胞を減少させることと、ドナーさんの造血細胞を生着させるために免疫を抑制することを目的として、化学療法や全身放射線照射を併用した前処置を行います。その後、ドナーさんから採取した造血幹細胞液を点滴します。感染症の予防のため、前処置の途中からドナーさんの造血細胞が増えてくる(これを生着といいます)までの期間を無菌室内で過ごしていただきます。順調にいけば移植後2~3週間でドナーさんの細胞が増えてきますが、その後も数年間にわたり様々な合併症が生じることがありますので、まだまだ油断はできません。

造血幹細胞移植の副作用は?
 造血幹細胞移植、特に同種造血幹細胞移植は様々な合併症(副作用)が生じる治療法です。最悪の場合には移植の合併症のために命を失ってしまうことさえあります。ですので、移植を受けるかどうかを考える際には、どのような合併症が生じえるのかを知っていただく必要があります。以下に主な3つの合併症について説明します。もちろん、以下に書いてあることの全てが起こるわけではありませんが、起こる可能性があることとしてご理解していただきたいと思います。逆に、以下に記していない合併症(生着不全、意識障害、肝臓・腎臓・心臓の障害など)が起こることもあります。

移植前処置に伴う副作用
 大量の抗がん剤や放射線照射によって、一般的な抗がん剤の副作用である嘔吐、脱毛、骨髄抑制(白血球、赤血球、血小板の減少)が生じるだけでなく、口内炎・下痢などの粘膜障害、腎障害、心筋障害、肝障害などの強い副作用が生じることがあります。自覚症状としては口腔・咽頭の痛みが強く、半数ぐらいの方が痛み止めのために一時的に麻薬を必要とします。心筋障害については、特に移植前に抗がん剤で心臓に悪影響が出ている患者さんでは、重症の心不全を生じることがあります。肝臓については肝中心静脈閉塞症(VOD)という命に関わる副作用が出ることがあります。また、長期的な副作用として性腺機能不全(不妊)、二次性発癌、白内障、間質性肺炎などを合併することがあります

感染症
 移植直後の3~4週間は、白血球が減少するとともに、胃腸の粘膜が前処置で障害されるため、細菌や真菌(カビ)による感染症を生じやすくなります。無菌室の中で過ごしていただきますが、それでもほとんどの患者さんが熱を出しますので、抗菌薬(抗生物質)の点滴を行います。その後、ドナーさんの白血球が増えてきますが、免疫力はまだ十分には回しません。サイトメガロウイルスを中心としたウイルス疾患やアスペルギルスという真菌の肺炎にかかりやすい時期(移植後3~4ヶ月まで)が続きます。移植後3ヶ月を過ぎても、少なくとも移植後1~2年程度までは免疫力低下状態は続き、肺炎、髄膜炎、帯状疱疹などの感染症を生じることがあります。次に説明するGVHDを合併すると様々な感染症にかかりやすくなります。

GVHD (移植片対宿主病)
 輸注する造血幹細胞液の中にはドナーのリンパ球(白血球の一種)も入っています。リンパ球は外部から侵入した病原微生物(細菌、ウイルスなど)を攻撃する大事な働きをします。しかし同種造血幹細胞移植の後には、造血幹細胞と共に患者さんの体の中に入ったリンパ球が、患者さんの体そのものをよそ者とみなして反応し、攻撃してしまう免疫反応を起こすことがあります。この病態を専門用語で移植片対宿主病(GVHD)と呼びます。
 GVHDは、発症する時期とその原因に応じて二つのタイプに分けられます。急性GVHDは移植後3か月以内に発症する病態で、皮膚、肝臓、大腸などを攻撃する反応です。原因不明の熱が続いたり、皮膚に軽い発疹(ブツブツ)が出たりすることが多く、重症の場合には火傷のようになります。肝臓の細胞が破壊され、重症の場合には肝臓の解毒作用がなくなって黄疸が出現します。腸管が攻撃されると大量の水のような下痢が続いて栄養不全となり、いずれも重症になると患者さんは死に至ることがあります。慢性GVHDでは、皮膚がカサカサになって固くなったり、目や口の中が乾き易くなったり、肝臓の障害がでたり、肺が固くなって呼吸がうまくできなくなったり、様々な症状がでる可能性があります。
 急性・慢性のGVHDの発生を予防するために、シクロスポリンやメソトレキセートなどの免疫抑制剤を用います。この予防処置を行ったにもかかわらずGVHDが発生した場合には、ステロイド(副腎皮質ホルモン)剤による治療を行いますが、ステロイド治療に反応しない場合は重症化して命に関わることがあります。また、これらの治療によって感染症が増加する危険があります。重症(3度以上)のGVHDを発症する確率はドナーとの関係などによって影響されます。

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同種造血幹細胞
移植の流れ

移植後の合併症と
出現しやすい時期

拒絶

GVHD