性腺機能障害  移植前に行う大量の抗がん剤や放射線照射によって性腺(男性の精巣、女性の卵巣)がダメージを受け、移植後にはほとんどの患者さんが精子や卵子を作れない状態になります。これは、こどもをつくるができない、「不妊」状態につながり、また、女性の場合は女性ホルモンがでなくなるために、月経がこなくなり、更年期障害のような症状が出ることもあります。
 ただし、性腺の障害の程度は移植前処置の方法によって大きく異なります。再生不良性貧血に対するシクロホスファミド(商品名エンドキサン)単独の前処置や悪性リンパ腫に対する自家移植の前処置の後には女性の卵巣機能が回復することは珍しくありません。一方、ブスルファン(商品名ブルルフェクス)という抗がん剤を大量に使うと性腺機能はほとんどの場合に回復しません。シクロホスファミドと全身放射線照射の併用の移植前処置の場合は稀に性腺機能の回復がみられます。いずれの場合にも、移植時の年齢が若いほど、性腺機能が回復する確率は高くなります。
 がん治療と不妊の問題については日本がん・生殖医療学会のホームページでも詳しい情報が紹介されていますので参考にしてください。

不妊の対策、あるいは性腺機能を守るために
●精子や卵子の凍結保存
 男性の場合は精子を採取して凍結保存することができます。また、女性の場合には既婚の方でしたら卵子を採取してご主人の精子を受精させてから凍結保存することが可能です。未婚の女性患者さんの場合は、未受精卵を凍結保存する技術が最近になって開発され、臨床研究が行われています。
 しかし、既にたびかさなる化学療法を行っている場合には良質の精子や卵子を採取するのは難しいのが現実です。また、女性の場合は、卵子を採るためには排卵周期にあわせる必要があること、卵巣に針を刺さなくてはならないことなどから、血液科の医師と不妊治療の医師がこまめに連絡を取りながら準備することが大切です。

●卵巣を遮蔽した全身放射線照射
 30際未満の患者さんでしたら、(再生不良性貧血に対して行われるような)シクロホスファミド単独の前処置なら高い確率で卵巣機能の回復が期待できます。ですので、(白血病に対して行われる)シクロホスファミドと全身放射線照射(TBI)を併用した移植前処置の場合にも、卵巣の部分を金属のブロックで遮蔽すれば卵巣の回復が期待できるだろうという考えてはじめた方法が卵巣遮蔽全身放射線照射です。
 この方法によって60~80%の女性患者さんの卵巣機能が回復し、既に移植後に元気な赤ちゃんを出産したかたも5人います。心配なのは、卵巣や骨盤にあたる放射線の線量が少なくなることによって移植後の再発が増加することです。今のところは再発が増加するという印象はありませんが、今後も注意深く経過を見守る必要があります。