我々が社会生活する上で、相手に対し適切な情動を持ち、適切な社会行動をとることは必須のことである。しかし、この情動行動と社会行動の神経機構は不明な点が多い。

　最近、我々は小児科学部門との共同研究で、シナプスの接着因子であるCell adhesion molecule 1 (CADM1)を欠損したマウスは社会行動異常を示すことを明らかにした (1)。一部の自閉症の患者さんでCADM1遺伝子に変異があることを考えると非常に興味深い。

　また、我々は、特に下垂体後葉ホルモン（バゾプレシンとオキシトシン）の情動行動（すくみ行動、不安行動、鬱行動、報酬行動）と社会行動（母子愛着行動、社会記憶、社会的親和行動、攻撃行動、情動伝染）における働きに興味を持っている。オキシトシン受容体を欠損している動物は、社会行動が障害されている。即ち、母性行動が低下し、攻撃行動が増加し、社会記憶が低下する (2)。逆に、オキシトシンを投与すると社会行動が増加する。このオキシトシンの社会行動に及ぼす影響の神経機構を検討している。一方、もう一つの下垂体後葉ホルモンであるバゾプレシンも情動と社会行動に深く関与している。我々は、嗅球にあるバゾプレシン産生ニューロンが社会記憶に必須であることを見出している (3)。

1. Takayanagi Y, Fujita E, Yu Z, Yamagata T, Momoi MY, Momoi T, Onaka T. Impairment of social and emotional behaviors in Cadm1-knockout mice. Biochem Biophys Res Commun, 396: 703-708, 2010.
2. Takayanagi Y, Yoshida M, Bielsky IF, Ross HE, Kawamata M, Onaka T, Yanagisawa T, Kimura T, Matzuk MM, Young LJ, Nishimori K. Pervasive social deficits, but normal parturition in oxytocin receptor-deficient mice. Proc Natl Acad Sci USA, 102: 16096-16101, 2005.
3. Tobin V, Hashimoto H, Wacker DW, Takayanagi Y, Langnaese K, Caquineau C, Noack J, Landgraf R, Onaka T, Leng G, Meddle SL, Engelmann M, Ludwig M. An intrinsic vasopressin system in the olfactory bulb is involved in social recognition. Nature, 464: 413-417, 2010.