小腸移植


自治医科大学は、肝移植、腎移植、膵移植の他に、小腸移植の脳死移植施設として認定(2011年)されています。

小腸とは?

小腸は、私たちの食べたものが通過する筒のような構造をしていて、この筒の中を食べ物が通る間に食べ物は消化され栄養が吸収されます。また、小腸には動脈と静脈が付いています。動脈からは小腸が機能できるように、酸素などを多く含んだ血液が流れ込みます。そして小腸から吸収された栄養などを含だ血液が、静脈を通って小腸の外に出て、主に肝臓を通り、私たちが生きていくために必要なエネルギーに変えていきます。

小腸移植の対象となる病気は?

小腸移植の対象となる病気は、小腸の働きが不十分となる病気で、そのような状態を腸管不全とよびます。腸管不全となる病気には、短腸症と、腸管運動障害の2種類があります。成人と小児では腸管不全となる原因、小腸移植が必要になる原因は大きく異なります。

短腸症

何らかの原因で小腸を大量に切除し、結果的に吸収機能障害などが永続する状態。
中腸軸捻転、小腸閉鎖症、壊死性腸炎、腹壁破裂、上腸間膜動静脈血栓症、クローン病、外傷、デスモイド腫瘍、腸管癒着症など

腸管運動障害

回復することのない腸管運動障害。
慢性特発性偽性腸閉塞症、ヒルシュスプルング病とその類縁疾患

小腸移植を考える時はいつ?

小腸移植を考えるのは、中心静脈栄養が永久に必要であるにもかかわらず、中心静脈栄養を行うことが難しくなったときになります(重症腸管不全)。中心静脈栄養とは高カロリー輸液療法のことで、口から食事を取れなくなった方に栄養を補給する方法のひとつで、血管が太く血流量の多い中心静脈に濃度の高い輸液を投与する方法です。
中心静脈カテーテル挿入部位の感染などがあると、中心静脈カテーテルを交換しなければなりません。中心静脈カテーテルの交換をするために、頻回に中心静脈カテーテルを挿入すると、その部位の血管が血液の塊で詰まってしまい(血栓形成)、カテーテルが挿入できる部位が限られ、ついには留置可能な血管がなくなってしまうことになります。また、栄養状態の低下や下痢などにより、生活の質が著しく低下することもあります。これらの患者さんに小腸移植が必要となります。
さらに、中心静脈栄養法の合併症として、カテーテル留置に伴う敗血症を頻回に繰り返す場合や肝障害が進行(肝不全)しつつある場合など、生命に影響を及ぼすような状態の時も小腸移植が必要になります。

新しい治療法の開発

当科では、研究室と協力し、腸管不全の新しい治療法の開発にも取り組んでいます。その第一歩が「ポリアミン」です。
ポリアミンは、アミノ基を分子内に2つ以上持つ炭化水素化合物の総称で、ウィルスを除く全生物種の細胞に含まれており、細胞の成長や増殖を始め、細胞の生命活動に深く関与している物質です。我々はポリアミンの細胞増殖効果に注目し、ラット短腸症モデルを用いて、ポリアミン摂取により残存腸管の吸収能、バリア機能が高まることを示し、ポリアミンが短腸症の新たな治療選択肢となる可能性を提唱しています。
2023年3月に開催された第35回日本腸管リハビリテーション・小腸移植研究会では研究奨励賞を授賞しました。この発表は、短腸症の患者さんを診療している先生方にインパクトがあったようで、腸管不全合併肝障害(IFALD)の改善効果も期待されています。

  • 第35回日本腸管リハビリテーション・小腸移植研究会 研究奨励賞授賞研究奨励賞を受賞した笠原 尚哉先生(左)

お問い合わせ

小腸移植の件数は国内ではまだ少ないものの、成績は着実に向上してきています。2018年4月から小腸移植は保険適応となり、従来よりも小腸移植の相談がしやすくなっています。どんな些細なことでも構いません。遠慮なく下記までお問い合わせください。

〒329-0498
栃木県下野市薬師寺3311の1
自治医科大学 消化器一般外科移植外科
自治医科大学附属病院 移植外科
担当:大西
TEL:0285-58-7069(受付時間 平日9:00~17:00)
E-mail:onishiy@jichi.ac.jp
ポリアミン関連については(担当)寺谷(株式会社コンビとの共同研究)
E-mail: teratani@jichi.ac.jp