ストレスの神経回路の研究 stress2.png

 ストレスの脳内機構に関し、主に神経内分泌系、特に下垂体後葉ホルモン系を指標に研究してきた。下垂体後葉ホルモンは視床下部ホルモンなので脳の直接の出力であるし、下垂体後葉ホルモンを分泌するニューロンの細胞体は視床下部室傍核と視索上核に局在しており解剖学的にも追いやすいという利点がある。

 下垂体後葉からのバゾプレシン分泌は、肉体的なストレス刺激(痛み刺激、走行)で増強され、精神的なストレス刺激(新奇環境暴露、条件恐怖刺激)でむしろ抑制されることを見出した。それに対し、下垂体後葉からのオキシトシン放出は下垂体前葉からのACTH放出と同様、いずれの刺激を加えても強弱はあるが促進された。

 この下垂体後葉ホルモン系のストレス反応を担う神経回路を探索する目的で、Fos蛋白質発現を神経活動の指標として検討する実験、Fos蛋白質発現検討に逆行性トレーサーを組み合わせた実験、マイクロダイアリシスによるノルアドレナリン放出を測定する実験を行った。その結果、視床下部に投射する延髄のノルアドレナリン産生ニューロンがストレスで活性化されることが分かった。しかし、その活性化の度合いは、ストレスの種類により大きく異なっていた。即ち、精神的ストレスである条件恐怖刺激は、延髄背内側部のA2ノルアドレナリン産生ニューロンのうち特にプロラクチン放出ペプチド(PrRP)を共存させているニューロン群を活性化させ、侵害刺激は延髄腹外側部のA1ノルアドレナリン産生ニューロンを活性化させた。これに対し、モルヒネ禁断は大きな神経内分泌反応を誘発させるが、あまり延髄のノルアドレナリン産生ニューロン9031024_s.jpgを活性化させなかった。さらに、ノルアドレナリン産生ニューロンに特異的な神経毒素を用いた破壊実験を行い、条件恐怖刺激と侵害刺激に対する神経内分泌反応は延髄ノルアドレナリン産生ニューロンが担っていることを示した(1, 2)。ノルアドレナリン産生ニューロンに依存しないストレス反応(新奇刺激に対する反応など)についても合わせて追っている。

 オキシトシンとバゾプレシンは、軸索末端のある下垂体後葉からだけでなく、視床下部においても刺激に応じて樹状突起と細胞体からも放出される。この視床下部内で放出されたバゾプレシンとオキシトシンの生理的意義として視床下部に投射するノルアドレナリン軸索末端に作用しノルアドレナリン放出を促進しているということ、即ち、正のフィードバックがあることを示した(3)。この機構は、分娩のように短時間に多量に分泌するための機構としても役立っている可能性がある。また、オキシトシンには抗ストレス作用があることが報告されている。従って、脳内のオキシトシンはストレス時にストレス反応が過剰にならないようにブレーキをかける働きがあるのかも知れない。

  1. Onaka T. Neural pathways controlling oxytocin release from the pituitary during stress. J Neuroendocrinol, 16: 308-312, 2004.
  2. Onaka T, Takayanagi Y, Yoshida M. Roles of oxytocin neurones in the control of stress, energy metabolism, and social behaviour. J Neuroendocrinology, 24: 587-598, 2012.
  3. Onaka T, Ikeda K, Yamashita T, Honda K. Facilitative role of endogenous oxytocin in noradrenaline release in the rat supraoptic nucleus. Eur J Neurosci, 18: 3018-3026, 2003.

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