研究内容

ストレス、摂食、情動、社会行動の研究というと、一見ばらばらのようですが、いずれにも下垂体後葉ホルモンのオキシトシンとバゾプレシンが深く関与しています。現象論的にも、ストレスは摂食、情動、社会行動に強い影響を与えることが示されています。逆に、エネルギー代謝状況といった内的要因と、社会環境といった環境要因は、ストレス反応を担う神経機構に可塑的な変化を与えます。その結果、ストレス刺激に対する反応性(ストレス脆弱性とレジリアンス(回復力))に影響をもたらします。これらの研究を通して、ストレスに関連する疾患と社会行動異常を伴う疾患の病態を解明し、新たな治療法を開発することを目指しています。

     

ストレスの神経機構

寄りラット.jpgストレスは様々な疾患の増悪因子となり、生命予後に影響することが知られています。しかし、その機構は不明です。ストレス、特に精神的なストレスは、まず、脳において受容されます。このストレスの脳内機構に関し、主に神経内分泌系と行動系を指標に研究しています。その結果、精神的ストレス刺激と、痛み刺激などの肉体的ストレス刺激は延髄-視床下部の異なるニューロン群を活性化させ、それぞれ特異的な反応を誘発させることを見出しました。
我々は、特に延髄のPrRPを共発現させるノルアドレナリン産生ニューロン (Trends Endocrinol Metab 2010) と中脳縫線核のセロトニン産生ニューロン (J Neurosci 2009)と、下垂体後葉ホルモン産生ニューロンの働きに興味を持っています。

milk_btn_pagetop.png

摂食およびストレスとの相互作用の神経機構

デブマウス写真(65-66週齢)低解像度.jpg満は生活習慣病の大きな危険因子で、寿命を短くする因子であることが報告されています。肥満の原因は過食、あるいはエネルギー消費の減少です。ストレスを負荷すると過食、あるいは、少食になります。エネルギー消費にも影響を及ぼします。一方、個体のエネルーギ代謝の状態もストレス反応に影響を及ぼします。しかし、このエネルギー代謝とストレスの相互干渉の機構は不明です。この相互干渉の神経機構を研究しています。
我々は、摂食とストレスは延髄のPrRP/ノルアドレナリン産生ニューロンを共通して活性化することを見出しました。また、PrRPが毎回の食事の終了を伝達するための脳内における満腹信号物質であること、PrRPを欠損すると肥満となり糖代謝異常を生じることを明らかにしています (J Clin Invest 2008, Trends Endocrinol Metab 2010)。

milk_btn_pagetop.png

情動・社会行動の神経機構

mouse SI.psd我々が社会生活を営む上で、適切な情動を持ち、適切な社会的行動をとることは必須です。しかし、この情動行動と社会行動、特に、社会行動の神経機構には不明な点が多くあります。我々は、下垂体後葉ホルモン(オキシトシンとバゾプレシン)の情動行動(不安行動、鬱行動、報酬行動)と社会行動(母子愛着行動、社会記憶、社会的親和行動、攻撃行動、情動伝染)における働きに興味を持っています。我々は、嗅球にあるバゾプレシン産生ニューロンが社会記憶に必須であることを見出しました (Nature 2010)。