免疫細胞の教育(selection)と並んで、もう一つとても面白いと思ったのは、T細胞の
サブセットという概念です。T細胞はヘルパーT細胞(Th細胞)と、細胞傷害性T細胞(killer T cell, cytotoxic T cell, Tc細胞)の2種類に大別できます。両者の区別は細胞表面のCD4分子とCD8分子の有無でつけることができます。CD4分子が陽性ならTh細胞、CD8分子が陽性ならTc細胞です。

更にTh細胞も2種類に分類できることを1986年、米国DNAX研究所のMosmannと Coffmanが報告しました。インターフェロン(interferon, IFN-)γやIL-2を主に産生するTh1細胞と、インターロイキン(interleukin, IL-)4, IL-5, IL-6などを産生するTh2細胞です。Th1細胞が細胞性免疫(つまりTc細胞やNK細胞、マクロファージなどによって感染した細胞を排除する仕組み)、Th2細胞が液性免疫(血清に含まれる抗体によって病原体を中和するなどの仕組み)を増強するという役割分担があるという説です。

私が興味深いと思ったのは、Th細胞は胸腺から出てきたときはTh1, Th2細胞いずれにもなりうる、ニュートラルな存在だという点です。Th1, Th2細胞への分化を決定するのはその細胞の周囲の環境です。もっと具体的に言えば、周囲のサイトカイン環境です。

サイトカインは細胞同士の情報伝達に使われる液性因子(タンパク質)であり、前述のIFN-γ, IL-2, IL-4, IL-5, IL-6などはすべてサイトカインの1種です。

Th1細胞の分化に必須なのはIL-12というサイトカインで、これはマクロファージなどの細胞が産生します。Th2細胞の場合はIL-4が分化に必須です。これはTh2細胞自身も産生しますし、好塩基球という細胞も産生します。

Th細胞は必要に応じてTh1, Th2細胞のどちらにも変化する、賢い細胞なのです。

Th1/Th2細胞のバランスが、生体の免疫応答の性質を決めるというこの仮説はその後数十年間、免疫学の世界を支配するパラダイムになりました。

佐藤 浩二郎

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