細胞内染色+フローサイトメトリーで得られる情報は多いのですが、しばらくやってみて「これは続けられない」と観念しました。何しろ相手は生ものなので、どんどん処理しなくてはいけないのです。臨床の合間にできることではありませんでした。しかし色々と体感できたことはあり、たとえばIFN-γはTh1細胞の産生する代表的なサイトカインと言いますが、キラーT細胞の方がよほど多くの比率の細胞がIFN-γを産生します。その一方で、ヘルパーT細胞の中でIL-17を産生するポピュレーションは数パーセントに過ぎないのですが、キラーT細胞の中にはほとんどIL-17産生細胞は見つかりませんでした。従って、「Tc1細胞はかなりいるがTc17細胞というものはほとんどいない(末梢血には)」という感触を得ました。Tcのcは細胞傷害性 cytotoxicのイニシャルです。一応、この方法を使って一報だけ症例報告を書きました。難治性の関節リウマチの患者さんにリツキシマブを使った報告です。関節リウマチの第一選択薬であるメトトレキサートが副作用で使えず、生物学的製剤(当時は2種類しか無かった)も同様に使えなかったために、ステロイドを比較的多めに使っていました。ステロイドの副作用を考えるとなるべく減量しなければいけないのですが、痛みが強くステロイドを減らせないおばあさんでした。確かに炎症反応も強いのです。リツキシマブは海外では関節リウマチに使えるのですが、日本では今に至るも保険適応がありません。しかし他に手が無く、患者さんが痛い痛いと泣くので何とかしなければと思い、大学病院の倫理委員会で手続きをとってリツキシマブを投与しました。しばらく何の変化も見られなかったのですが、1ヶ月くらい経ったら炎症反応が減ってきて、ステロイドも減量できるようになったのです。やはり効果のある薬でした。投与して良かったと思います。その後に他の生物製剤が色々使えるようになったので、リツキシマブに頼る必要はなくなりました。

 話を戻すと、フローサイトメトリーはやめて、試験管内で刺激した単核球の培養上清を回収し、後でELISAを使ってサイトカインを定量するやり方に切り替えました。培養上清は凍結保存しておいて、サンプルが貯まった時点でELISAにより測定します。血清とは違って、今回は十分測定することが可能でした。ただし弱点としては、「測ったサイトカインがどの細胞に由来するのかがこの方法では分からない」ということがあります。サンプル中のヘルパーT細胞とキラーT細胞の比率も分かりません。

佐藤 浩二郎

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