試験管内で刺激した単核球の培養上清からは、IFN-γ(Th1応答)、IL-4(Th2応答)、IL-17(Th17応答)いずれも十分に測定できます。(まあ以前も書きましたが、たとえばIFN-γはCD8陽性T細胞の方がより多く出している可能性はあります。)

 この方法を用いて、関節リウマチ患者の生物製剤投与前後のサンプルを比較することを計画しました。生物製剤(この時はTNF阻害薬)を投与するとほとんどの症例で炎症は低下し、DAS28のような病勢を把握するためのcomposite scoreも低下します。この状況でサンプルを比較すればサイトカイン産生には差が出るだろうと予想しました。そして、関節リウマチが当時予想していたように本当にTh17型の疾患であれば、治療が奏功した場合にIL-17産生が低下してくるだろうというのが作業仮説です。もちろん、それほど治療に特異性がなく、「サイトカインが3種類とも治療後に低下する」という可能性も考えられましたが。

 倫理委員会に計画を通して、いざ検体を集め始めると、特徴的なパターンが見えてきました。IFN-γ, IL-4, IL-17のいずれも、産生量は「治療後に増える」傾向があったのです。統計学的にも有意差がつくレベルです。これは全然予想していない結果でした。と言うより、正反対でした。どう解釈したら良いのか、頭を抱えることになりました。偶然、治療効果の低い患者ばかり集まったのでしょうか。しかしDAS28も、炎症マーカーであるCRPも有意に下がっています。治療は効いているはずです。そこで同じ培養上清を使ってIL-6を測定してみると、有意差の出るレベルではありませんでしたが、平均値は増加していました。これもまた不思議なことでした。というのは、CRPの誘導にはIL-6が重要であることが分かっており、CRPはIL-6の値を反映するsurrogate marker(代替マーカー、代用マーカー)と考えられるからです。つまり、生体内ではIL-6は減少しているはずです。ということは、この実験方法自体に大きな問題があることが示唆されます。

 そもそも、治療前のサイトカイン産生量を見ると、健常人(コントロール)のそれと比べて低い値でした。試験管内のサイトカイン産生量が増える、というのは確かなのですが、むしろ「正常に近くなっている」と解釈した方がよいのかもしれません。

佐藤 浩二郎

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