インフリキシマブ投与後の末梢血単核球からのサイトカイン産生の方が投与前よりも高くなるというのは意外でしたが、むしろ「インフリキシマブ投与前の産生が健常人より低く、それが治療後に健常人に近づいた」ように見えました。つまり、治療前の末梢血単核球の応答性が落ちているのです。局所(ここでは関節)の炎症が起きているために、過剰な炎症応答を抑えようとするネガティブ・フィードバックが全体的に(非特異的に)かかっているのではないかと考えました(以前制御性T細胞で実験したときにそうしたフィードバックが重要だろうと考察したことも影響しています。Sato et al., Biochem Biophys Res commun. 2005)。そのネガティブ・フィードバックの指標として、血漿中のアルギナーゼという酵素の活性を調べてみようと考えました。アルギナーゼが治療前後で「下がっている群」と、「上がっている群」に分けて比べると、前者でサイトカイン産生が上昇しており、後者ではサイトカインの上昇が見られなく(統計的に有意ではなく)なりました。

やはりネガティブ・フィードバックがありそうな結果です。近年、免疫学に様々な代謝の研究が導入されており、こうしたアルギナーゼ活性解析なども代謝免疫学研究の一環と言えるかもしれません。しかしその後その分野には手をつけていません。私にとってここは未開の分野として残っています。

 このプロジェクトについては、「末梢血単核球からは治療後に産生が増えるが、血清中で治療後に低下し、更に血清中で測定可能なサイトカイン」を探し、血清IL-21がギリギリ測定できることが分かったのでその結果をつけてアジアリウマチ学会誌に何とか「ねじ込み」ました(Miyoshi et al., Int J Rheum Dis. 2018)。このプロジェクトを通じて、測定のために色々工夫することの危険性を学びました。危険性は大げさかもしれませんが、血球を刺激するなどの操作のために、結果に意外な影響が出ることもあるのです。できればサンプルを、なるべく手を加えずに測定する方が素直な結果が出せそうです。(45)で述べたサイトカインの歌(?)に寄せて言えば、④測れないなら 測れるものを見つけよう サイトカイン

ということになるでしょう。では測定できるサイトカインとはどのようなものでしょうか。IL-21も、多くの血清サンプルで検出限界以下でした。検出感度ギリギリだと、測定誤差も(相対的に)大きくならざるをえません。

佐藤 浩二郎

私的免疫学ことはじめ (48)← Prev     Next →私的免疫学ことはじめ (50)