解きたい問題はRANKL ≑ TNF + X  Xは何か? というものです。

X = RANKL – TNF と言いたいところですが、元々等号ではありませんし、そもそも算数の問題ですらありません。答えは複数存在するのかもしれませんし、答えは無い(「解無し」)のかもしれません。Xの候補も無数にあるため、いくら私が「妄想王」を目指しているといっても(?)なかなか手が出せませんでした。プロジェクト再開の糸口となったのは、ELISAに似たやり方で特定の転写因子の活性を評価するという、それまでに試したことのなかった方法でした。特定の転写因子が結合するDNA配列がコートしてあるウェルに細胞抽出液を添加して、その後でその転写因子に対する標識抗体を反応させ、発色させる、というようなシステムです。これを使うと、例えば「同じ濃度のTNFとRANKLとで破骨細胞前駆細胞を刺激すると、古典経路は確かにTNFの方が活性化が強いが、非古典経路についてはTNFの方が弱いわけではなく、同じくらいの活性はありそうだ」などという解釈が可能になりました。そして、注目したのは「TNFの方がRANKLよりも少しc-Fosの活性化が弱いんじゃないか?」という結果です。転写因子c-Fosは破骨細胞分化で重要な役割を果たします。実際、c-Fosのノックアウトマウスは破骨細胞が分化せず大理石骨病を呈することが分かっています。c-Fosの活性化を指標にしてXのスクリーニングができるのではないか?と考え、いくつかの液性因子を試すことにしましたc-Fosを活性化することが報告されているケモカインやサイトカインです。その中でも内心、特に狙いを定めていたのはIL-4でした。というのはTh17細胞と破骨細胞の関係を調べた2006年のJEMの仕事の時に、破骨細胞分化系にTh2サイトカインであるIL-4を添加すると、破骨細胞分化は阻害したものの「多核にはなっている」ことに気づいていたからです。TRAP染色はうっすらとしか染まりませんでした。一方、RANKLの代わりにTNF単独で破骨細胞前駆細胞を刺激した場合には、多核にはならないものの「TRAP染色ではよく染まる」ことも分かっていました。この2つの因子を組み合わせればTRAP陽性の多核細胞が得られるに違いありません。勇んで早速実験してみました。すると、TNF + IL-4を添加したウェルでは多核細胞は・・・全然・全く出来ていませんでした。流石にそんなに甘くないか、とがっかりしたのですが、「陰性対照(ネガティブコントロール)」のウェルを見たときに「あれ?」目を疑うことになりました。

佐藤 浩二郎

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